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「双龍に月下の契り」深月ハルカ(ill:絵歩)

あらすじ
天空の神舟を護り支える伝説の「五葉」。次期「五葉」候補として生まれた羽流だが、選んだのは国王に献身的に仕えることで……?

本文より抜粋

 ────あれが、叔父上?
 はっとするほど秀麗な黒い瞳、すっとした鼻梁、形よく引き締まった口もと。肩を流れ落ちる黒髪。
 ───こんなきれいな人がいるんだ。
 まるで武神像のようだった。美しく整っているのに、力強い覇気をにじませている。
 街で見かけた武官のような服装だからかもしれない。細い帯の脇には剣を佩いていて、それは少し滄の恰好に似ていた。年も、叔父と聞いていたから、もっと上かと思っていたのに、見た目には万浬や遡凌とほとんど変わらない。
 羽流は、万浬も遡凌も優雅な兄だと思っていた。けれど、叔父にはもっと違う、圧倒されるような感覚を受けて息を呑んだままだった。
「あ、あの…」
 きちんと挨拶をしなければ、と思うのに、喉が詰まってうまく声が出ない。
 万浬が笑って近づいてきた。
「入っておいで、皆で一緒にご挨拶しよう」
 どうぞ、と桃李にも促され、羽流は転ばないように裾ばかり見ながら広間に入った。視界に入っていなかった滄が隣に来て、四人が並ぶ。
 叔父の前で兄弟が膝をつき、万浬が優雅な物腰で頭を下げて紹介してくれた。
「改めてご挨拶申し上げます。羽流でございます」
「…」
 頭上の気配が少し戸惑ったように思えた。
 万浬が、言い訳のように説明を口にする。
「その…少し身体が弱いため、小柄ではありますが」
 相手の一瞬の沈黙と万浬の言葉に、羽流は自分が相手を失望させたのではないかと身を竦ませた。
 兄たちが日頃から自分の発育の悪さを案じているのは知っていた。やはり、乳兄弟のシュニにすら劣る体格は、よくないことだったのだと思うと羽流はいたたまれない。
 萎縮する羽流に、海燕の苦笑する声が聞こえた。
「小さいというより幼いだけだろう。そう気にするほどではない…羽流、顔を上げなさい」
「は、はい」
 羽流が見上げると、海燕と目が合う。
 深く強い瞳。じっと見られるとその覇気に居竦むような気がするのに、吸い込まれるようで目が離せない。
「王都までは長旅だっただろう。疲れは取れたか?」
「はい」
 海燕の声は凜として心地よく響いた。羽流が緊張して答えると、海燕は強さをにじませたまま微笑む。
「館に部屋は余っている、仮に離れに決めたが、あとで好きな場所を選びなさい」
「……はい」
 何か希望はあるかと聞かれたものの、言葉が続かず、まごまごしているうちに、沈黙が流れてしまった。
 叔父が気を遣って話しかけてくれているのはわかっているが、何か言わなければと思うだけで、気の利いた言葉が出てこない。
 焦って頼るように万浬のほうへ視線を泳がせると、海燕がくすりと唇の端を上げた。
「やはり気が張るか」
「え…あ…いえ」
 ふと海燕の気配が緩んで、笑みが柔らかくなる。
「初めて会うのだから、すぐに馴染むことは難しいだろう、おいおい慣れていけばよい」
「……はい」
「それまではまあ、そなたたちの子守りが必要なのは仕方がないな」
「は…こら、羽流」
「え…あ、あ!」
 笑われて視線を送られ、羽流はようやく自分が隣の万浬の裾を握りしめていることに気付いた。叔父はこれを見て笑っていたのだ。