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「セーラー服を着させて」柊モチヨ(ill:三尾じゅん太)

あらすじ
有能なイケメン会社員・柚希の秘密、それは乙女なオネエであること!そんな柚希はある日、ノラ猫のような美少年を助けるが…!?

本文より抜粋

「…今も着たいのか? セーラー服」
「え?」
 思ってもいなかったことを聞かれ、柚希は恭平を見上げる。いつもの、ちょっと目つきが悪い猫目を丸くして、恭平は何度かまばたきをした。…返事を待っている。
「ま…まあね。だって可愛いじゃない。似合わないのはわかるけど」
 まさか、そんなことを聞かれるとは思わずに、困ったように笑った。すると、恭平はこくりとうなずく。
「そうだよな、似合わねぇよ。だって橋本さん、背高いし、筋肉だってそれなりにあるし。スーツのほうが、すごく似合ってるし」
「う……」
 はっきりと言われて、柚希は顔を歪める。怒ったようにじっと恭平を見つめた。
「…でも、着たいならいいんじゃないの。セーラー服を着たいと思っているのが、橋本さんなんだから」
 吊り目を少し細めて、恭平は優しい顔ではにかむように微笑んだ。めったに見せない素直な笑顔に、柚希はドキッとしてしまう。
 可愛いな、なんて考えてしまい、柚希は思わず頭を振った。
「あ、ありがと……、あたし…部長のこと、頑張るからね!」
 あわてて山吹の話に戻した。すると、恭平は一瞬戸惑い、眉をひそめてすぐに目をそらした。
「………っ」
 なにか言いたげに唇を噛む。緑の目に動揺の色が浮かび、柚希は不思議そうに恭平を見た。
「? どうしたの、瀬谷くん?」
「……あの、俺、橋本さんに…言わなきゃなんないこと、あって…」
「え? なによ、言ってみなさいよ」
 恭平から体を離して、見上げたまま恭平の言葉を待つ。しかし、恭平はただ視線をうろうろさせるばかりで、なかなか言い出そうとしない。緊張した空気が漂い、柚希は少し酔いが醒めた。
「…瀬谷くん?」
 ようやく柚希に視線を合わせたその目は、じっと柚希の瞳を見つめていた。緊張をかくせない目に引き込まれ、互いに無言になる。しずかな夜の空気に、心臓の音だけが鳴り響いているようだった。それくらい、いつの間にか心臓の音が、大きく速くなっていた。
「な…によ、どうしたの…」
 あはは、と、この空気を断ち切りたくて笑う。しかし、恭平はなにか言いたげに柚希を見つめるだけで、なにも言わない。
 柚希は立ち上がって、恭平が言いたいことを聞き出そうとした。しかし、酔ってぐらぐらとしていた体がバランスを崩し、足がもつれる。視界が歪んで、思わず、目の前にいた恭平のほうに倒れ込んだ。
「わ……っ」
 体勢を保てず、柚希は恭平を巻き込んで倒れてしまった。とっさに両腕を伸ばして、恭平が頭や体を打たないように抱き締めたため、腕や足がコンクリートにぶつかり、痛みにぎゅっと目をつぶる。
「った…ごめ、瀬谷く…」
 あわてて恭平を離して、道路に手をついたまま恭平を見下ろす。自分の下に押し倒したような体勢になってしまったものの、頭や体は守ったから打ってはいないだろう。しかし、身動きをしようとしない恭平に不安がつのり、柚希は恭平の頭を支えて顔をのぞき込む。
「どうしたの、まさかどこかケガ…」
 暗い視界でも、恭平がどんな顔をしているのかわかった。
 頬を赤くして、息を呑んで。泣きそうなほどに切ない目をして、柚希を見上げていた。
「………っ」
 息を止めた。初めて見る恭平の表情。なにか言わなくちゃ、と思ったのに、なにも言葉は出てこない。思わず頬に触れた手を離そうと思うのに、考えとは反対に、指で恭平の頬を軽く撫でてしまう。ピクッと反応して、恭平は目をつぶった。