ちょこよみリンクス

「カデンツァ3 〜青の軌跡<番外編>〜」久能千明(ill:沖麻実也)

あらすじ
ジュール=ヴェルヌより帰還し、故郷の月に降り立ったカイ。自身をバディ飛行へと駆り立てた原因でもある義父・ドレイクとの確執を乗り越えたカイは、再会した三四郎と共に『月の独立』という大きな目的に向かって邁進し始めた。そこに意外な人物まで加わり、バディとしての新たな戦いが今、幕を開ける——! そして状況が大きく動き出す中、カイは三四郎に『とある秘密』を抱えていて…!? 「カデンツァ」シリーズ、いよいよ本格始動!!

本文より抜粋

「あんた、男の服を選んでて楽しいか?」
 可愛らしく小首を傾げ、目を輝かせて身を乗り出すアントナンに、三四郎は呆れている。
「もちろん楽しいです。三四郎さんはスタイルがいいし、顔だってそんな膨れっ面してなけりゃワイルドなハンサムだから、着せ甲斐がありますよ」
「……俺は着せ替え人形か?」
 喜色満面に頷かれて、三四郎がだらりと脱力した。心底嫌そうな三四郎の前に立って、アントナンが腰に手を当てて覗き込む。
「何度も言うようですが、必ず僕かカイ様の近くにいてくださいね。大使館職員には凱様を知っている人間は多いですから、なるべく近づかないように。判らないことを聞かれたら、傷が痛むふりをしてはぐらかしてください」
「はあ……」
 返事の代わりに大きなため息。
「御自分が怪我人だということを忘れずに。きびきび歩いたりしないでくださいね。凱様は紳士です。スーツを着崩さないこと、大口を開けて笑わないこと。それから、アルコールは禁止です」
「酒も飲むなってか!?」
「あなたは狙撃されたんです! 療養中なんですよ!!」
 だいぶ三四郎の扱いに慣れてきたアントナンが、育ち過ぎた駄々っ子に言い聞かせる。
「もう好きにしてくれ……」
 目の前に突き出された顰めっ面を恨めしげに見上げていた三四郎が自棄気味に呟き、改めてアントナンの童顔を眺めた。
「……そういやあんた、カイの幼馴染みって言ったよな?」
「みたいなものです。正確にはカイ様と幼馴染みなのは兄で、僕はその弟ですが、何か?」
 唐突な問いにアントナンがきょとんと目を見張る。
「弟だとしても、若過ぎねえか? カイはコールドスリープやらウラシマ効果やらで年をとってないんだぜ。なのにあんたは、そのカイより若くないか?」
「ああ、そのことですか」
 青年というより少年のような顔を綻ばせたアントナンが頷いた。
「まず、僕は兄やカイ様と年が離れていました。それから僕にも月人の血が流れていますから、通常の人種より加齢が進むのが遅いんですよ」
「得な人種だな」
 時間管理を怠り、滅茶苦茶なタイムリープを繰り返してきた三四郎には、他人の年齢を聞く習慣がない。アントナンの若さが気になったのも、少年のような彼に説教されるのがちょっと癪に障ったからで、説明を聞けばそんなものかと思うだけだ。
「月人の血の表われ方には個人差があるんです。僕は若さとちょっとした感情制御くらいしか出来ませんが、兄は感情が昂ぶったときだけ瞳の色が変わりましたよ。カイ様とは比べものにならない変化でしたが、僕は兄の目が好きでした」
「でした?」
 他人の言葉にあまり注意を払わない三四郎だが、アントナンが兄を語る言葉が過去形なのにはさすがに気づいた。
「死にました」
 一瞬顔を強張らせたアントナンが、素っ気なく呟いて手元の書類に視線を落とした。顔は伏せたまま、視線だけ上げて三四郎を見る。
「驚かないんですね」
「んー、商売柄、死ぬの生きるのって話は耳タコだからな」
「ふふ……っ、三四郎さんのそういうトコ、好きですよ。カイ様はいいなあ」
 いつもの笑顔にほんの少し苦みを加えて呟くと、アントナンが背筋を伸ばした。
「さて! 無駄話はこのくらいにして、そろそろ今晩の話をしましょう。過去に凱様が関わったことのある人間をリスト
アップしておきましたから、パーティーまでに覚えてくださいね」
「げ」
「子供じゃないんだから『げ』はないでしょ」
 呆れ顔で笑う顔は、もういつものアントナンだ。
「部屋に戻りますよ。パーティーの予習と衣裳チェックです」
「結局それかよ」
「文句を言わない! さあ仕事仕事!」
 明るく宣言すると、アントナンは渋る三四郎を無理矢理立たせた。小柄なアントナンに引きずられるように、三四郎の
長身が通路の向こうに消えていった。