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「赦されざる罪の夜」いとう由貴(ill:高崎ぼすこ)

あらすじ
精悍な容貌の久保田貴俊は、バーで飲んでいた夜、どこか淫らな色気をまとった上原慎哉に声をかけられ、誘われるままに寝てしまう。二人の関係はあくまで『遊び』のはずだったが、次第に上原の身体にのめり込んでいく貴俊。しかしある日、貴俊は上原の身体をいいように弄んでいる男の存在を知る。自分には見せたことのない表情で、男に命じられるまま自慰をする上原に言いようのない苛立ちを感じる貴俊だが、彼がある罪の償いのために、その男に身体を差し出していると知り…。

本文より抜粋

 部屋には、貴俊が横たわっていたダブルサイズのベッドがひとつきりなのが、妙に心に引っかかった。ツインの部屋は空いていなかったのだろうか。
 クスリ、と慎哉が笑った。どこか婀娜っぽい微笑だった。
 貴俊はドキリとする。
 その動揺に気づいているのかいないのか、慎哉は軽く貴俊のそばに腰を下ろし、答えてくる。
 それはとんでもない答えだった。
「覚えていないのか? オレと寝てみるって言ったじゃないか、久保田」
「寝る? ……寝るって……え?」
 シャワー直後のしっとりとした慎哉を、貴俊は信じられない思いで見やった。
 ──寝るって……それはつまり、添い寝とかじゃなくて……あの……。
 真っ赤になって口をパクパクさせる貴俊に、慎哉がまた「ふふふ」と笑った。シャワー後のせいなのか、眼鏡を取った慎哉は、スーツ姿のストイックさとは正反対の色香を漂わせていて、貴俊を動揺させる。
 魅入られたように凍りついている貴俊に、慎哉の指が伸びる。弛んだネクタイをしなやかな長い指で解かれた。
「今夜は思い切り羽目を外してみるって、言っていただろう?」
 解いたネクタイを放り投げ、続いて慎哉はワイシャツのボタンを外し出す。下まで行くと、今度はスラックスのベルトを外された。
「ちょっ……ちょっと、上原!」
 このままではどんどん脱がされてしまう。
 貴俊は慌てて、慎哉を止めようとした。
 しかし、上目遣いに微笑まれ、息を呑む。それは、健全な紗枝との交際では知る機会もなかった、淫靡な微笑だった。
「シャワー浴びてくるか? それともこのまましちゃうか。オレは……このままでかまわないけど?」
「上原……んっ」
 軽く後頭部を掴まれ、唇を塞がれる。薄い唇は情が薄そうにも見えたのに、触れてきたそれは熱かった。
「ん……ふ……うえは……ら……んんっ」
「久保田……」
 チュッチュッと唇を吸われ、巧みに舌が口中に滑り込んでくる。ねっとりと絡みつく舌に甘く吸われて、貴俊の下腹部が熱を帯びてきた。
 ──まずい……こいつ、上手い。
 相手は同性だと言い聞かせても、口内を舐めては舌先で悪戯してくるキスに、下半身が勝手に欲情していく。
 気がつくと、ワイシャツをすっかり脱がされていた。
「ん……久保田、どうする?」
 最後にチュッと音を立てて唇を離すと、慎哉が囁いてくる。あの長い指がしなやかに、弛められたスラックスの前から陰部を包むように入り込んでいた。
「おまえ……いつもこんなふうに男を誘っているのかよ」
 あまりに慣れた手つきに、貴俊はそう訊いてしまう。
 慎哉がフッと、微笑んだ。
「男とスルのが好きなんだよ。──大丈夫だ。抱かれるのは、おまえじゃない。どうする?」
 濡れた眼差しで、貴俊を誘ってくる。どちらかといえば生真面目だと思っていた同期の変貌に、貴俊の思考はついていけない。
 しかも、この同期が、男に抱かれるのが好きな男だったなんて。
 ──どうしろって言うんだよ……おい。
 自分が男を抱く。そんなことなど、考えたこともなかった。六年間付き合ってきた紗枝は女性であったし、それ以前の交際相手も皆、女性だ。断じて、自分には同性愛傾向などない。
 けれど──。
 コクリ、と貴俊の喉が鳴った。
 キスで濡れた唇で、誘うようにこちらを見上げている慎哉。
 バスローブから覗く、思ったよりも白く、滑らかな肌。
 自分はまだ酔っているのだろうか。そうでなければこんなこと、受け入れられるわけがなかった。
 しかし、今の自分はたしかに、目の前のこの同僚に欲情している。スラックスの中に入り込み、下着の上から雄芯を撫でている長い指に、ゾクリとした。
 どうかしている。
「……わかった。やろう」
 気がつくと、貴俊の唇は勝手に動いていた。