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「月神の愛でる花 ~六つ花の咲く都~」朝霞月子(ill:千川夏味)

あらすじ
ある日突然、見知らぬ世界・サークィン皇国へ迷い込んでしまった純情な高校生の佐保は、若き皇帝・レグレシティスと出会い、紆余曲折を経て結ばれる。彼の側で皇妃として生きることを選んだ佐保は、絆を深めながら、穏やかで幸せな日々を過ごしていた。季節は巡り、佐保が王都で初めて迎える本格的な冬。雪で白く染まった景色に心躍らせる佐保は街に出るが、そこでとある男に出会い…!?

本文より抜粋

 大切な思い出を他人に話さないことで閉じ込めてしまい、風化させたくないと思えるようになったのは、レグレシティスと出会い、優しい人々に囲まれて暮らすようになってからだ。たとえ思い出すことで、涙を流すことがあったとしても、佐保は一人ではない。傍らで共にいてくれる人がいる。
 佐保が口にしなければ、優しい人たちは家族のことを尋ねることも話を振ることもない。
 そうやって毎日を過ごしているうちに、気が付けば、いつの間にか腹の底に溜まっていた重いものが消えてしまっていた。
 一方の皇帝が佐保に家族のことを尋ねなかったのは、稀人として一人此方の世界に来てしまった佐保に不用意に家族の話を強請り、それが原因で郷愁に囚われて悲しむ佐保を見たくなかったと思ったのだ。
(マーキーに言えば、弱気だ臆病だと笑われてしまうだろうな)
 それも仕方ない。佐保に元の家族を与えてやることは、サークィン皇国皇帝であっても絶対に不可能なことだからだ。
 その家族の話題を佐保は自ら口にした。
「副団長様にはご迷惑かもしれないけど、僕、兄の姿を重ねてしまっているのかも。だから時々すごく気安く話し掛けてしまって……。失礼じゃないでしょうか?」
「あいつ自身が取り澄ました態度とは無縁だから、大丈夫だ。迷惑だと思っているはずがない」
「だったらいいんですけど」
 思案するように小さく呟いた後、佐保はにこりと笑って皇帝の手を握った。
「はい。だから僕、今日は嬉しいんです」
 レグレシティスは「ん?」と眉を寄せた。今の会話の流れは完全にマクスウェルのことだった。それがどうして嬉しいに?がるのかわからない。
「佐保、喜んでくれるのは嬉しいが、どうしてそう思った?」
「副団長様も忙しいみたいで、あんまりお会いしていないんです」
「ああ、北西部の雪害に駆り出されているからな。それで?」
「だけど、今日は陛下が早く帰って来てくれました。お食事もご一緒出来たし、お風呂も一緒に入れて、こうしてお話しする時間もたっぷりあるからでしょう? ミオさんたちとは毎日喋ってるけど、陛下とお話するのとはやっぱり違うし。だから嬉しいんです、たくさん話が出来て」
「寂しかったのか?」
「──少し」
「そうか」
 皇帝は微笑んで佐保を抱き締めた。
「私も嬉しい。お前を独占することが出来て」
「お相子ですね──んっ……」
 佐保はふふっと笑ったが、すぐにその声も聴こえなくなってしまった。
 皇帝が佐保の唇を塞いだからだ。冷たかった唇は、すぐに二人の熱で溶けて吐息と共に交じり合う。
 ゆっくりと寝衣を剥がしながら、手を繋ぎ、足を絡ませる。
 焦れったくなるほど丁寧な愛撫の後で、後孔にレグレシティスが自身を深く埋め込んだ。
「──寒くないか?」
 掛布団は足下の方でくしゃくしゃに丸くなり、室内には?がった二人の姿が浮かぶ。疾うに落とされた暖炉の火は室温を下げていたが、汗に濡れて火照った体には、ちょうどいい。
「全然……暑いくらい……」
 繋がった箇所から広がる熱は、体全部を侵食し、どこもかしこも熱に浮かれている。うっすらと浮かぶ汗も、中で息づく皇帝の性器も、声も視線も何もかもが熱を運んでくる。
 淡い下生えの間で立ち上がった佐保のものは、皇帝の大きな手のひらに包まれて、先端から滲み出る露で濡れて光り、その時を今か今かと待ち望んでいる。
「お前には私がいる。私もお前の家族だ。寂しい時には私を呼べ。私のすべてでお前を包み守ろう」
「ありがとう、陛下」
 目元を朱に染めた佐保はゆっくりと覆い被さる皇帝の首に腕を回した。
「大好き」
「私もだ」
 喉元に直接触れた声。はぁ──と微かな吐息が佐保の口から零れ、その声にまた皇帝のものが大きくなり、もっと欲しいという気持ちが大きくなる。
 もっと深く、もっと奥まで突いて欲しい。
 もっともっとたくさん愛して欲しい。
「──して」
 涙の滲む瞳を閉じて口にした願いは、激しく動き出した男によってすぐに叶えられることになる。