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「天使のささやき 2」かわい有美子(ill:蓮川 愛)

あらすじ
警視庁警護課でSPとして勤務する名田は、同じくSPの峯神とめでたく恋人になる。二人きりの旅行やデートに誘われ、くすぐったくも嬉しく思う名田。しかし、以前からかかわっている事件は未だ解決が見えず、また名田はSPの仕事に自分が向いているのかどうか悩んでもいた。そんな中、名田が確保した議員秘書の矢崎が不審な自殺を遂げる。ますますきな臭くなる中、名田たちは引き続き行われる国際会議に厳戒態勢で臨むが…。

本文より抜粋

 名田が頭を下げると、峯神は広いベッドの方へと足を運び、全体を見まわすとまるで子供のような楽しそうな表情でポンと弾みをつけて腰を下ろす。
「ここ、有名メーカーのマットだろ? すごいよ、本当に身体を受けとめてくれる感じ。ちょっと試してみて」
 おいで…、と招かれ、名田も同じように峯神の隣に腰を下ろしてみる。
「あ…、本当だ。固い感じだけど、すごくしっかりしてる」
 へぇ…、と名田はしばらくマットの上で、峯神と並んで子供のように何度か弾んでみる。
「俺の部屋の安マットとは違うよなぁ。デカいしさ、これだったら寝返り打っても壁に腕ぶつけたりしないし」
 峯神はごろりと真っ白なシーツの上に転がる。
「名田、知ってる? ベッドは広くなればなるほど、寝心地がよくなるって」
「そうなんですか?」
「ああ、たかが十センチ、二十センチのことなんだけど、それだけ寝返りを打てる横幅が広くなると、人間は格段に寝心地がよくなったって思うらしい」
「その『たかが十センチ、二十センチ』が、今の寮の部屋事情だととてもとても増やせないんですけどね」
 名田は平河寮に移った当時の、鬱鬱となった部屋を思って溜息をつく。
 前住者の煙草のヤニで黄ばんだカーテンと絨毯は、諦めて買い換えた。蛍光灯のシェードも黄ばみがひどかったので、これも購入したものと替えた。蛍光灯については、退寮時に元のものに戻す予定だ。
 クロスや窓枠、臭いの染みついたエアコンについては、洗剤を使って掃除した。古いが、今はそこそこ見られる部屋になったと思う。
 だが、物理的な広さばかりはさすがにいかんともしがたい。
 極力家具と物を減らし、部屋の床面積を多く見せて、少しでも部屋を広く見せるぐらいだ。
 十センチも広いベッドを置くなど、夢のまた夢だ。
「そのうち、もう少し広いベッドに寝かせてやるよ」
 峯神の言葉の意味がわからず、名田はちょっと首をひねる。そのうち…、というのは今晩という意味だろうか。
「だから、俺の部屋に泊まりに来てよ」
「えっと…、峯神さんの部屋ですか?」
 名田の部屋で峯神を泊めるのも、峯神の体格がいいためにかなり難しいが、それ以上に峯神の部屋は色々とアレなので厳しいのではないかと思う。
 そんな名田をどう思ったのか、峯神は指を伸ばして名田の顎の下をくすぐる。
 くすぐったくて思わず首をすくめながらも、名田は峯神に求められるままにその隣に身を横たえた。
「犬や猫じゃないんですよ?」
 もしかして、それ以下に思われてはいないかと考えながら、名田は目を細める。
「犬や猫は、お前みたいにエロ可愛い顔は見せてくれないよ」
 峯神の言い分に名田は頬を染め、受けとめられることを承知で軽いパンチをくり出す。
「それは峯神さんを襲うためです」
「それはまたずいぶんおっかない赤ずきんちゃんだな」
 案の定、名田のパンチをその大きな手で受けとめた峯神は、ずいぶん色っぽい笑みを見せた。
「オオカミさんはおとなしく喰われておきたい」
「じゃあ、おとなしくしておいて下さい」
 名田が峯神の身体の上に乗り上げると、峯神は笑いながら抵抗の意思がないとばかりに両手を軽く上げてみせる。
 そんな男が愛しくなって、名田は峯神の着ているニットを笑いながら引き?いだ。
「じっとしていて下さいよ」
「あ、本気で襲うつもりなんだ?」
 たわいないやりとりが、今は新鮮で嬉しい。
 名田は裸に?いた男に被さり、軽くその唇を舐める。
 少し厚みのある官能的な形の唇が開き、ゆっくりと、時にははぐらかすように舌を絡め、キスに応えてくれる。
 そのキスと絡む吐息の合間に、峯神がささやいた。
「また、ジャグジーのあるところ、泊まろうな。今度はもっと早くから探すから」
「はい」
 たわいなくても、次の約束をちゃんと峯神から言い出してくれることが嬉しい。
 ささやかな約束であっても、これから先への光を峯神が提示してくれたような気持ちになる。