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「千両箱で眠る君」バーバラ片桐(ill:周防佑未)

あらすじ
幼少のトラウマから、千両箱の中でしか眠ることができない嵯峨。ヤクザまがいの仕事をしている嵯峨は、身分を偽り国有財産を入札するため財務局の説明会に赴いた。そこで職員になっていた同級生・長尾と再会する。しかし身分を偽っていたことがバレ、口封じのため彼を強引に誘惑し、抱かれることに。その後もなし崩し的に長尾と身体の関係を続ける嵯峨だったが、なぜか彼の側だと、千両箱の中以外でも眠ることができた。そんな中、長尾が何者かに誘拐され…。

本文より抜粋

 何が何でも金は受け取らないという態度でいると、嵯峨は業を煮やしたのか、ぐちゃぐちゃになった札束を近くの机の上に投げ出した。
 それからぐっと、長尾のネクタイをつかんで詰め寄ってくる。
「だったら、どうしたら俺の言うことを聞くんだよ? ぶん殴られたいか?」
 揉み合いのせいで少し紅潮した嵯峨の顔が、キスできそうなほどすぐそばにある。そして、学生時代から変わらない鍛え上げられた細身の身体が、長尾を壁にグッと押しつける。
 服越しにその身体の感触を読み取った途端、大きく鼓動が乱れた。
 頬に嵯峨の吐息がかかる。鼻孔に飛びこんできた嵯峨の匂いに、出し抜けに身体の熱が上がった。
 ヤバい、と気づいたときには、長尾の下肢はぐぐっと形を変えていた。
 そのことに狼狽し、焦って嵯峨の身体を押し返そうとしたが、すぐに気づかれたらしい。
「ん?」
 不審そうな声が上がるのと同時に、嵯峨の腰が角度を変えて押しつけられた。硬く熱を孕み始めていたものが圧迫されて、さらにどくんと脈が弾けた。
 マズい、ヤバい、どうしてこんな、と声にならない叫びが頭の中で鳴り響く。早く冷静にならなければいけないとわかっているのに、嵯峨の身体との間で圧迫された性器は、ますますその体積を増すばかりだ。
「てめえ、俺に欲情してんの?」
 嵯峨の声が、耳元にかかる。その声にこめられた殺気に、背筋が凍りついた。下手したら、嵯峨を侮辱したと因縁をつけられて殺されるかもしれない。なのに、身体は収まってくれない。
 そのとき、嵯峨が長尾の首に腕を引っかけ、ぐっと重みをかけてきた。
「てめえの口止めには、金よりこっちのほうが有効か」
 嵯峨の整った顔が、焦点が合わないぐらい近くに寄せられてくる。何が起きようとしているのかわからずにいると、唇に柔らかいものが触れた。
「……っ」
 それが嵯峨の唇だと気づくまでには、たっぷり五秒間はかかっていたように思う。頭の中が真っ白だ。
 ──え? ……え、え、え? これって、何……?
 呆然としている間に顎をつかまれ、軽く首を横に倒されて大きく唇を割られた。
 舌の表面がぬるぬると、嵯峨の舌と擦れ合う。
 そんないやらしいキスなど、初めてだった。だけど身体はどっぷりとその快感にのめりこみ、自然と嵯峨の腰に腕が回される。
 全身で感じる嵯峨の骨格は、紛れもなく同性のものだった。細身だが、みっしりとした筋肉の質感を受け止める。
 なのに、それは少しも長尾の性欲を減退させるものではなかった。
 恍惚としたような痺れが脳髄を支配し、まともに頭が働かない。
 そんな長尾の身体を壁に押しつけ、深く舌を差しこんで淫らなキスを続けていた嵯峨が、ふと口を離して低く囁いた。
「てめえ、……俺としたいの?」
 嵯峨とすぐそばで視線がからみあった。
 ──してみたい。
 キスしたことで欲望が掻き立てられ、制御不可能なほどの興奮がこみ上げてくる。
 だけど、したらマズい。そんなことぐらいわかっている。この男と関係を持ったら、口止めだけでは済まされない。ネタにして脅され、自分の立場を利用して何らかの無茶な要求を呑まされることは目に見えている。
 だが、押しつけられた嵯峨の身体が、長尾に理性を取り戻すことを許してはくれなかった。
 嵯峨は何もかも承知の体で笑った。
「気持ちよくしてやるよ」
 そのまま、すすす、と嵯峨の身体が下に落ち、長尾を壁際に立たせたまま、その前にひざまずかれる。スラックスの上からペニスに顔を擦りつけられて、そのぞわぞわするような感覚に長尾は震えた。
「やめて……ください。……駄目です、……こんなのは……っ」
 高校のときから憧れていた嵯峨の姿が頭をかすめる。自分が嵯峨に近づきたいと思ったのは、こんなことをしてみたかったからではないはずだ。
 だが、嵯峨に下から見上げられると頭が麻痺する。
 ベルトを緩められ、わざと見せつけるように歯でジッパーの金具をくわえて引き下ろされると、ペニスがガチガチに勃起していくのがわかった。