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「眠り姫とチョコレート」佐倉朱里(ill:青山十三)

あらすじ
 バー・チェネレントラを経営している長身でハンサムな優しい男・黒田剛は、店で繰り広げられる恋の行方をいつでも温かく見守り、時にはキューピッドにもなってきた。そんな黒田だが、その実、素はオネエ言葉な乙女男子だった。恋はしたいけれど、こんな男らしい自分が受け身の恋なんて出来るはずがないと諦めている。しかしある日、バーの厨房で働くシェフの関口から突然口説かれて…。

本文より抜粋

「こわいか?」
「………」
 黒田は小さくうなずいた。
「どうして?」
「だって私は、小さくもかわいくも細くもないし……」
「まだ言いやがるか」
「どこからどう見ても男だし」
「あのな」
「……幻滅されたらどうしようと思う」
 最大のハードルはそれだ。好きな人に好きになってもらえなかったらどうしよう、この容姿が、好きな人のこのみでなかったらどうしよう。
「そこかよ」
 めんどくせえ、と呟かれたのを、黒田の耳はしっかり拾い上げた。
 黒田は暴れた。
「どうせ! この齢になっても恋愛経験値が絶対的に少なくて! おまけにめんどくさいヴァージンですよ!!」
「いやそこまで言わなくてもいいから。……おもしろいやつだな、おまえ」
「どうせ……っ」
「いやいやいや、わかったわかった」
 関口はおかしそうに声を立てて笑い、黒田を抱き寄せてよしよしと背を撫でた。
「確かにおれがこないだ別れたやつはほっそりしてたけど、それだって単にそいつがそういう体つきだったってだけで、べつに体型が好みだからつきあってたわけじゃねえし。平沢だって細身に見えるけど、けっこう鍛えたカラダしてたぜ?」
 しかし、そこで引き合いに出された魅力的な青年の名に、黒田はまた感情をこわばらせた。それは肉体にも響き、関口はそれを感じ取って、またあやすように背中を撫でる。
「おれがいくら博愛主義者だからって、ただのボランティアで、好きでもない男のこんなとこ握って気持ちよくさせてやろうとは思わねえよ」
 黒田は恨めしげに睨んだ。
「わからないわよ、ドンファンのくせに」
「そこまで言うか? ……確かにおれはモテるしホモであることに何の罪悪感もためらいも持ってないがな、だからって、世の中のホモがみんな幸せになればいいなんて、誰かさんみたいな人のよさは持ち合わせてない。好きなやつにしかさわりたくない、好きでもないやつがどうなろうと知ったことじゃない。わかるか」
「……わからない」
「わかれよ。それくらいおまえが好きだってことだ」
 黒田は力なくかぶりを振った。
「わか──」
「わかるまで言ってやる。おれはおまえが好きなんだ。おまえはそのままでいいんだ。オネエ言葉でしゃべりたいならそれでいいし、実はあんまり好きじゃないなら、ふつうにしゃべれ。ピンクのフリルを着たっていい。おまえがいつまでも縮こまってるのは見たくないし、その伸びやかな背を伸ばしてゆったり息をさせてやりたいと思うし、男言葉でしゃべるのもむしろいいし、さっきから動揺するたびごっちゃになってるのはかわいいし、気持ちよくさせてやりたいし、甘い声も聞きたいし、さっきの泣き声には実はちょっとそそられたし、キスしたいしキスされたい。おまえがおれの愛撫でとろとろになってるところを」
 それ以上はとても聞いていられなくて、まだつらつらと続けそうな男の口を手でふさいだ。
 息ができなくなりそうだった。
 情熱的で直截的でいやらしい口説きの言葉の数々は、自分に向けられるものとしては、黒田が初めて聞くものだった。頭に血がのぼって、芯のほうがじんじんしてくる。
 どうしよう、どうしたら。
 迷ううちに、業を煮やした関口の舌は、口をふさぐ忌々しいてのひらをべろりとなめた。
「……っ」
 不意打ちをくらってびっくりした黒田は、すばやい手に両手を押さえつけられて、目をみはった。