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「リーガルトラップ」水壬楓子(ill:亜樹良のりかず)

あらすじ
――イカツイ顔して、心は乙女♥――
 名久井組の若頭・佐古は、組のお抱え弁護士である征眞とセフレの関係を続けていた。そんなある日、佐古は征眞が結婚するという情報を手に入れる。征眞に惚れている佐古は、彼が結婚に踏み切らないよう、食事に誘ったりプレゼントを用意したりと、あの手この手で阻止しようとする。しかし残念ながら、征眞の結婚準備は着々と進んでいき…。

本文より抜粋

「どうした?」
 ベッドの上に身を起こした佐古が尋ねるのと同時に、道長がバッ…とリビングの方に向き直り、その大きな身体でドアをふさぐようにして立つ。
「──いやっ、ですからっ、頭はその…、今、来客中で……っ!」
 しかし必死の様子で声を上げた道長の身体が無造作に押しのけられ、現れたのはよく知った男の顔だった。
 一瞬、息をつめ、銃を構えた佐古だったが──思わず深いため息をもらす。
「なんだ…。おまえか、征眞」
 素っ気なく口にしながらも、内心では一気に脈拍が上がっていた。
 身体の奥からじわじわと疼くような熱が、浮かされるみたいな悦びが、喉元までいっぱいにこみ上げてくる。
 実際、この男が佐古の部屋を訪れたのはひさしぶりだった。
 なるほど、道長あたりでは押さえきれるはずもない。というか、征眞はいつどんな時でも、このマンションならフリーパスだった。
 ことによれば、名久井組長の本家も、だ。
 同い年の三十二歳。それぞれに、もうすぐ三になる。
 ガタイのよい佐古と違って、スレンダーでスタイルのいい、知的な美人だ。
 いつも通りにスタイリッシュなスーツ姿で、一見、人当たりのよい笑顔も、物腰や口調も、どの角度から見ても隙がない。
 そしてこの男の前に出ると、相当に年季の入ったヤクザでも膝を合わせて「先生」と呼び、頭を下
げる。
 萩尾征眞は、名久井組御用達の弁護士だった。しかも、かなりやり手の。
「ご挨拶だな」
 征眞が腕を組み、佐古を冷ややかに見下ろしてくる。そしてちらっと、いかにも値踏みするようにベッドの女を横目にすると、淡々と言い放った。
「ほう? 女に使えるモンがあるんならちょうどいい」
 腕を組み、口元に薄い笑みを浮かべた傲慢な口調。
 視線は躊躇いもなく、ベッドの端に全裸ですわり直した佐古の中心に注がれている。
 ……つまるところ、そのために来た、というわけだ。
 まあ、征眞が佐古の部屋に来る用事など、ソレ以外ではほとんどない。組で何か緊急の問題でも持ち上がっていなければ、だが。
 征眞から声がかかるのなら、佐古としてはいつ何時でも時間を空ける用意はある。この男を腕に抱けるチャンスを逃す気はない。
 が、このひと月ばかりそうしたお呼ばれもなくて、佐古としては仕方なく、相手を見繕ってみたところだったのだが。
 それでも表面上は、やれやれ…、といったように首をふり、だるそうに腕を伸ばして引き出しに銃を放りこんだ。
「な……なによ、あんた……っ!」
 いいところで邪魔をされた女が、シーツを胸元に引き上げながら混乱と怒りで高い声を張り上げた。まあ、当然だろう。
 こんな状況で会ったのでなければ、いかにも身なりがよく、ステイタスもありそうな征眞などは、かなりの上客だと受け止められたはずだが。
 それにかまわず、征眞はおもむろに自分のスーツを脱ぎ始めた。無造作にイスに投げ、キュッ…と音を立ててネクタイを外しながら、いかにも相手にしていないように言い捨てる。
「うせろよ、アバズレ」
「なんですって…っ!?」
 モデル並にきれいに整った顔から放たれた予想外の暴言に、女が目を剥く。
 ……実のところ征眞は相当な毒舌家だった。
 顔に似合わず、というべきか、似合って、というべきなのか。
 まあもちろん、腕利きの法廷弁護士だ。しかもヤクザ御用達となると、口八丁手八丁、詭弁とわかっていても堂々と言い切るくらいのツラの皮の厚さは必要だった。
 あり得ない状況にしばらく呆然と口を開けたままだった女が、ハッと我に返ったように征眞をにらみつけ、そして佐古の裸の肩にしがみついてくる。
「な…なんなの、この男っ? 頭、おかしいわよっ。早く追い出してっ!」
 女の言うことは、まったくもっともだとは思う。
 が、佐古はそのきれいに磨かれた爪を引き剥がし、淡々と言った。
「悪いな。急用だ。今日は帰ってくれ」
「ちょっ……」
 思いもよらない佐古の言葉に、女は言われた意味がわからないというように大きく目を見開く。
「この男は俺に優先権があるんでね。おまえ程度の女にふさわしい男は、そのへんに掃いて捨てるほどいるさ」
 冷酷に征眞は言い放つと、さらにベルトを外し、女の目も、そして戸口に立ちっぱなしだった舎弟の目もかまわずズボンを脱ぎ捨てていく。
 容赦のない言葉に、どうやら今日はとことん機嫌が悪いようだな…、と佐古は覚悟した。
 ふだんならもっと外面はよく、顧問をしている会社あたりでは、「王子様」と陰でささやかれるくらい女性社員たちにも丁重で愛想のいい男だが。
「ほら、早く行け」
 これ以上、征眞の攻撃にさらされるのも気の毒で、佐古は身体を伸ばすと床に落ちていたバスローブをつかみ、女に投げた。
 まさか素っ裸でリビングにいる男たちの前に追いやるほど、佐古は鬼畜ではない。
 ──が、このまま押し問答を続けると、征眞ならやりかねなかった。
 そうする間にも、下着まで脱ぎ捨てた征眞はシャツ一枚になって、ボタンを外しながらベッドに近づいてくる。
 太腿から中心の陰りがかいま見えて、なかなかに扇情的だ。……あえて、なのかもしれないが。
 そしてベッドの手前で最後のシャツも脱ぎ捨てると、まるで邪魔な荷物か何かのように女の身体を押しのけ、征眞は佐古の太腿から中心をゆっくりと撫で上げてくる。
 それだけで、ドクッ…と身体の奥で血がたぎった。あっという間に、中心に熱がたまってくるようだった。
 さらに征眞が肩に片腕をかけ、指先で背中をなぞるようにしながら、ほとんど奪うように唇を重ねてくる。
 濃厚なキスだ。舌を絡め、深く貪られる。
 抵抗することなく、佐古はそれを受け入れた。甘く、息苦しく、ずっと足りなかった征眞の熱が自分の身体の中に入りこんでくる。
 そのまま征眞の体重を受け止める形で、佐古はシーツに背中から押し倒された。
 馴染んだ体温。あからさまに、てらいもなく見せる欲望。
 この重みに、沸き立つような喜びと、体中を満たす充足感と、そしてどこかホッ…と安堵している自分を感じる。
 ここしばらくご無沙汰だったが──だからこそ、佐古も女の誘いに乗ったわけだが──どうやら飽きられていたというわけでもないらしい。
 佐古も逆に攻めこむようにそのキスに応えながら、両腕を征眞の背中にまわしてきつく抱きしめた。ひさしぶりの感触を確かめようと、太腿から尻を手のひらいっぱいに撫で上げる。
 征眞の足がねだるみたいに佐古の腰に絡んできた。
 それは佐古を煽るためでもあり、佐古が自分の男だと主張する独占欲──というよりは、単に女に対する当てつけだとわかっていたが、胸の中が甘い愛しさに満ちてくる。
 ……まったく、ちょろい男だな……。 
 征眞が軽く腰を揺らせてくるのに、下肢が暴走しそうになるのを必死に抑えながら、佐古は自嘲してしまう。
 これほどあっさりと、いいように手玉にとられているとは。