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「クリスタル ガーディアン」水壬楓子(ill:土屋むう)

あらすじ
北方五都と呼ばれる地方で、もっとも広大な領土と国力を持つ月都。月都の王族にはたいてい守護獣がつき、主である王族が死ぬか、契約解除が告げられるまで、その関係は続いていく…。しかし、月都の第七皇子・守善には守護獣がつかなかったため、兄弟からは脳なしとバカにされていた。本人はまったく意に介さず、気にも留めていなかったのだがある日、兄である第一皇子から将来の国の守りも考え伝説の守護獣である雪豹と契約を結んでこいと命じられる。さらに豹の守護獣・イリヤを預けられ、一緒に旅をすることになり…。

本文より抜粋

「私はまだ十分に余力はある」
 素っ気なく、イリヤは答えた。
 と、ふと何か思いついたみたいに顔を上げて、守善がにやりと笑った。
「ま、危なくなってきたらいつでも言え。俺がもらってやってもいいぞ?」
 冗談なのだろう、とはわかる。
 が、それは、結局のところ人間は守護獣がいなくても生きていけるが、守護獣にはどうしても人間が必要だという優位性をあらためて指摘されているようで、むかっとした。
 まっすぐに顔を上げ、イリヤはぴしゃりと言った。
「意に染まぬ主を持つくらいなら、死んだ方がマシだ」
 やれやれ…、というように、守善がため息をつく。
「面倒なヤツらだな…。おまえといい、引きこもりの雪豹といい」
「同族だからな」
 本気でそう思っていた。その覚悟もある。
 みじめに、餌を与えられるようにして生きているよりはずっとマシだ。
 食事を終えてからようやく王都を出て、美ノ郷の方へと向かった。
 かといって急ぐわけでもなく、のんびりと旅を楽しんでいるふうなのに、ちょっといらつく。
 まわりがのどかな農村の風景に変わって、たまに速駆けで飛ばすこともあったが、それも旅を急ぐというより自分の楽しみのためのようだ。
 季節もよく、心地よく風が渡る川沿いの野原あたりでは、イリヤがにらんでいなければ昼寝くらいしていきそうである。
 王都を出たのが昼を過ぎていたので、その夜はすぐ隣の領で宿をとった。
 身分を伝えればその地方ごとの首長の館に泊まることもできるはずだったが、守善は気にせず、適当な安宿を選んだ。
 まったく、扱いが大雑把すぎる……。
 イリヤは内心でうなっていた。
 それはもちろん、自分は守善の守護獣でもないのだから、待遇にとやかく言う権利はないのかもしれないが。
 それでも一日近く一緒にいて、イリヤはそっと、守善の様子をうかがっていた。
 実は、千弦やルナに頼まれていたのだ。
 志奈祢山の道案内という口実で、守善としばらく一緒に過ごして、守善には守護獣を得るだけの「能力」が本当にないのかどうかを見極めてほしい、と。
 そうでなければ、自分は一足先に山へ行って、そこで待っていればすむことなのだ。
 もしかすると守護獣を持ちたくなくて、能力のないふりをしているのではないか、と千弦は疑っているらしい。
 人間というのは誰でも、自分の力を大きくしてくれる守護獣は持ちたがるものだと思っていたので、イリヤとしては半信半疑だったのだが、守善を見ているとあるいはそういうこともあるのかも、という気がしてきた。
 本当に関心がないようなのだ。……それはそれで、ちょっと腹が立つ。
 いや、別にこの男の守護獣になりたいわけではないのだが。
 イリヤにしてみれば、前の主と別れて以来、これだけ近くで、二人だけでいた人間は初めてだった。
 が、守善に特別な力があるようには、正直、感じられない。
 いや、感じられない、というより……何だかわからないのだ。
 何かありそうな気はするのだが、その正体がつかめない。
 千弦も同じようなことを言っていた。
「見えないんだよね、守善の能力は。何かある気はするのだけどね…」
 ――と。
 ペガサスの力を得ている千弦が迷うのもめずらしい。
 しかし実際、あれだけ剣の腕がいいのであれば、攻撃系に突出した能力を感じてもいいようなものなのだが。
 何というのか、もやもやした感じだ。
 これでは他の守護獣たちが敬遠する気持ちもわかった。結局のところ、箸にも棒にもかからない、ということなのかもしれないし。
 ……この暢気な様子を見ていると、おそろしくあり得そうな気がする。
 それでも不思議なことに、守善は動物にはよく懐かれるようだった。
 通りがかりの村で休んで水を飲んでいたりすると、すぐに野良ネコだけでなく、近所の飼い犬や馬までも近づいてくる。森を抜けていると小動物が併走することもあるし、鳥などもよく頭上を舞っている。  なんなんだ…、と思う。
 妙につかみどころのない男だった。