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「初恋のソルフェージュ」桐嶋リッカ(ill:古澤エノ)

あらすじ
 長い間、従兄の尚梧に片想いをし続けている凛は、この初恋は叶わないと思いながらも諦めきれずにいた。しかし、尚梧から突然告白され、嬉しさと驚きで泣いてしまった凛は、そのまま一週間、ともに過ごすことになった。激しい情交に溺れる日々の中、「尚梧に遊ばれている」だけだと彼の友人に凛は告げられる。それでも好きな想いは変わらなかった凛は、関係が終わるまで尚梧の傍にいようと決心し……。

本文より抜粋

「大丈夫か、凜」
「……尚梧さんがこんなヒドイ人だなんて思わなかった」
 ぐったりと横たわった凜の体に、真新しいシーツがかけられる。鼓膜の奥に、まだ自分の悲鳴の余韻が残っているような気がしてしょうがなかった。
「なんか一生分、イッた気がする……」
 無体な行為に鳴かされ続けた喉が、ヒリヒリと痛んでは凜の言葉をかすれさせた。オーバーだな、と髪を撫でる掌を感じながら、けしてそれは大袈裟な比喩ではないと内心だけで思う。
『ゆっくり時間をかけて──』
 その言葉どおり、尚梧は行為に慣れない凜の体を少しずつ、けれど確実に快感の海に沈めていった。
 自分ですら見たことのない部分を、人の目に晒しながら痴態を露にする──。
 その行為がどれだけ官能的で人の理性を失わせるか、尚梧は言葉と体を使って凜に教え込んだ。
 目を瞑ると、尚梧のものがまだ自分のうちに収められているような気がする。指で散々弄られて、慣らされた性感帯を意地悪く焦らされながらくり返される質問に、凜は必死に声を絞り、涙を散らした。『尚梧以外の男には触れられたこともない』と、何度訴えてもなかなか信じてもらえず、尚梧が二度達する間に凜は数えきれないほどの絶頂を体感させられた。
 もう出ないほどに弄られた器官は、いまも熱をもって凜の身を苛んでいる。
(体の隅々まで暴かれて、余すところなく食べられちゃった気分……)
 思えば、相当にディープな初体験をしてしまった気がする。だがどんな自分でも尚梧は受け入れてくれると言ったから、だから凜もどんな尚梧でも受け止めたいと思った。
(──正直、想像以上だったけど……)
 尚梧のエロさはかなりの勢いで凜の予想を上回っていたけれど、それでも焦がれていた尚梧に触れられているんだと思うだけで、心は何度でも熱く痺れた。
「体、平気か」
「うん、どうにか……」
 尚梧に手伝ってもらい、ようやくシャワーを済ませた体はすでにクタクタだった。
 ダブルベッドの片側でぐったりと毛布に包まった凜の横で、尚梧はさっきからベッドヘッドに背を預けながら膝に載せたノートパソコンのキーボードを叩いている。慣れない羽根枕に左頬を埋めながら、勤勉に動く指先を見つめていると、それに気づいた尚梧がまだ少し濡れている凜の前髪を撫でた。
「初めてにはキツかったよな。悪かった」
「ううん平気。女の子とは……違うし」
「あー……ま、女の方がタフなことは多々あるけどな」
 言いながら、尚梧の口元が少しだけ笑みを刻む。思い出し笑いが誰に向けられているのか、いまさら嫉妬しても仕方ないと頭では思うけれど、内心あまり面白くはない。
(わかってるけど、ちょっとツライ……)
 いったいいままでどれだけの人間が、あの圧倒的なセックスアピールに引っかかってきたんだろう。しかもそのすべてが無自覚だなんて反則にもほどがある。
(どれだけの手が、この体に触れたんだろう)
 伸ばした手で尚梧の二の腕に触れる。バランスよくついた筋肉の流れを指先でたどると、くすぐったそうに尚梧が目を細めた。
「どうした」
「……何でもない」
 子供じみた独占欲だという自覚はあるけれど、それをうまく抑え込めるほど、まだ大人にはなりきれない。沈んだ表情を見せたくなくて、凜は寝返りを打って尚梧に背を向けた。
 暗く沈んだ窓の外に、視線を逃がす。
 東京タワーの灯が落ちているということは、すでに日付が変わったということだ。煌々と灯っていたオレンジ色の代わりに、いまは楕円に歪んだ月がポツンと夜空に光を添えていた。