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「ハカセの交配実験」バーバラ片桐(ill:高座朗)

あらすじ
草食系男子が増えすぎたため、深刻なまでに日本の人口が減少し続けていた。少子化対策の研究をしている桜河内は、性欲自体が落ちている統計に着目していたところ、いかにも性欲の強そうな須坂を発見する。そこで、研究のため須坂のデータを取ることになった桜河内だが、二人で協力し合ううち、愛情が目覚めていく。そんなある日、別の研究者が、桜河内に女体化する薬を飲ませていたことが発覚し…。

本文より抜粋

 ――俺にエロいのを見せて、どうするつもりなんだ?
 早くアダルト映像をチェックしたくてそわそわしながらも、須坂は言ってみた。
「あの。……まさか俺は、オナニーしている様子とかも、観察されるわけ? その、やり方とか、癖とか、俺の神業に近い指テクとか、そういうのが記録として残されていくわけ?」
「マスタベーションする方法については、研究対象ではない。日に何度マスタベーションするか、それにどれだけ時間をかけるか、さらにそれに伴う身体の変化などは自動で記録されることになる。さらに、第一プロジェクトチームが開発した秘密兵器に、どれだけ実用性があるのか調べたい」
「秘密兵器って、どんなの?」
 興味津々に尋ねたが、またしても軽く流された。
「じきにわかる。あと少しで完成する。さぁ、好きなものを見ながら、マスタベーションしろ」
「……で、あんた、ずっといるの?」
 自慰の様子を見られるのがどれだけ精神的に障害となるのかを、桜河内は認識していないのだろうか。見られているだけで勃起しないという男もいるだろう。
 ――ま、……自分ではやったことがないって言ってたけど。
 それが須坂には信じられない。
 桜河内は須坂とさして変わらない年齢に見えたが、あんな素晴らしい快感を知らないなんて人生を損しているし、身体にも悪い。
 桜河内にもこの素敵な行為を教えてやりたいと思いながら、まずは好みのアダルト映像を探すことにした。
 須坂の好みは、胸が大きめで美乳の、色白ショートカットの女の子だ。目が印象的で、可愛いタイプがいい。最初は清純な感じなのに、始まると雰囲気がエロくなるのも好きだ。
 いまだに自分をセクハラで訴えた彼女に似たタイプの女優を捜してしまうことを切なく思いながら、須坂は画像をチェックしていく。
 その間、桜河内はタブレットから顔を上げて、興味深そうに須坂の様子を眺めていた。
 ――気になるなぁ、もう……っ!
 無視しようとしているのに、完全には無視できない。
 片っ端からサンプルをある程度チェックした後で、須坂は桜河内に視線を向けた。
 彼は椅子に深くもたれて、ディスプレイを真剣に見守っていた。そんなふうにしていると顔立ちの精緻さと相まって、作り物のように見える。
 そんな桜河内から人間らしさを引きだしたくて、須坂は口走っていた。
「……せっかくだから、おまえにオナニー教えてやるよ。少子化対策が問題になってんだったら、おまえみたいに性欲を覚えないタイプに、オナニー教えてやるほうが有効じゃないのか?」
 桜河内は、ハッとしたように身じろいだ。
 だが、毅然と顎を上げて拒んでくる。
「必要ない」
 そんなふうにされると、須坂の中でどうしてもさせたいような気持ちがこみあげてくる。熱をこめて言ってみた。
「けど、普通、あり得ねえぜ。男として生まれたからには、オナニーの快感ぐらい知っておくべきだって。相手がいるセックスもいいけど、オナニーはオナニーとしての完結した快感ってもんがある。あんな素晴らしいものを知らないなんて、もったいなさすぎる。あんたの研究にも差し支えると思うけど」
 一度覚えたら、桜河内もはまるはずだ。
 自分一人だけ自慰を観察されるのではなく、桜河内も引きずりこみたかった。
「…はな――っ」
 もっと桜河内のその表情が見てみたくて、須坂はさらに大胆に指先を動かした。他人の手に触れられることに嫌悪感があるのか、桜河内はぶるっと身体を震わせて肩を寄せた。
 それから、潤んだ目で須坂を鋭くにらみつけてくる。
「離……せ……っ!」
 その表情も、やたらと須坂を煽った。
 須坂は取り憑かれたように桜河内から目が離せなくなりながら、ささやいてみる。
「離してもいいが、……ッ、そしたら、あとは自分でできる?」
「っ、……何をだ」
「オナニー。一度、してみろよ。俺が直接教えてやるから」
 声がみっともないほど上擦っているのが、自分でもわかった。
 男の性器に興味などなかったはずだ。だが、桜河内のこんな顔と引き替えなら、触っても構わない。男に対するものとは思えない欲望がざわりと背筋をかすめる。