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「薔薇の王国」剛しいら(ill.緒笠原くえん)

あらすじ
長年の圧政で国が疲弊していく中、閉塞感を抱え暮らす貴族のアーネストには、ひた隠す願望があった。それは、男性に抱かれ快感を与えられることーー。ある日、屋敷で新入りの若い庭師・サイラスを一目見た瞬間、うしろ暗い欲求をその身に感じてしまう。許されざる願望だと自身を戒めるアーネスト。だがその願望に気付いたサイラスに、強引に身体を奪われたアーネストは、次第に支配されたいとまで望むようになっていく。そんな折、サイラスが国に不信を抱いていることを知るが…!?

本文より抜粋

「暴れると、面倒なことになるからな」
 そう言うとサイラスは、慣れた様子でアーネストの両手を、脱いだ自分のシャツの袖で縛り上げてしまった。そのせいでアーネストにはサイラスの体を押し戻す程度の、軽い抵抗すら出来ない。
「あっ、ああっ」
「初めてじゃないんだろ? もう何人、男をここに引きずり込んだんだ?」
 サイラスの嫌らしい口調に、アーネストは強い怒りを覚えた。
「侍従か? 庭師もいたんだろうか。それとも御者かな」
「わ、私は、そんなことはしない。しようとしたこともないっ!」
「へぇーっ、それにしちゃ、誘いかたが慣れていた」
 どうやらサイラスは、アーネストがとんでもない遊び人だと思ったらしい。そう思われてもしょうがないようなことをしたのは自分だったのかもしれないが、ここはどうしても身の潔白を証明したかった。
「昨夜のことなら謝る。薔薇の苗木を盗まれたのかと思って、動揺していたんだ」
「そんな言い訳は無駄さ。俺には、若様が俺に会いたくて来たとしか思えなかった」
「確かに会いたかったのは、事実だ。薔薇の苗木の話をする相手が、君しかいないから」
 冷静に話したところで、サイラスがこの愚行をやめてくれるとは思えないが、何とかサイラスも落ち着いてくれないかとアーネストは穏やかに接した。
「自分を誤魔化すのはやめたらどうだ、アーネスト」
「……」
「本当は、とっても悪い子なんだろ」
 まるでドネルのような口調で、サイラスは言う。
 もしかしたらドネルもサイラスも、同じ悪魔が入っているのではないかと思えてしまう。
「領主の跡取り、それがどれだけ偉いんだ、アーネスト?」
「えっ……」
 麦を刈らないのに、誰よりも多く麦から生まれる利益を持っていく。それが領主というものだと、何度ドネルは口にしただろう。その言葉がアーネストの脳裏に蘇り、ますます怯えさせていた。
「見ろ。裸になったら、お互いに同じ人間だ。むしろ俺のほうが、雄としては優れていないか?」
 サイラスはアーネストに見せつけるように、見事な裸体を燭台のほうに向けてみせる。すると屹立した立派なものが目に入って、アーネストは思わず目を閉じてしまった。
「いいさ、明日になったら、俺を警備兵に捕らえさせればいい。俺が鞭打たれるところを見たいんだろ、アーネスト……」
「わ、私を、名前で呼ぶな」
「どうして? いい名前だ。気に入ってるよ、アーネスト……。俺の、可愛いアーネスト」
 笑いながらサイラスは、アーネストの首筋に顔を近づけると、そっと唇を押し当ててきた。
 その一瞬、アーネストは血を吸われるのかと思って震え上がった。どうみてもサイラスは、魔物のようにしか思えない。
 貴族を恐れないのは、魔物ぐらいのものだろう。またはドネルのように、貴族に従うよりも神の言葉に従うことを決めた人間だ。
「サイラス、おまえは信心深いのか?」
 思わず訊いてしまったが、即座に笑い飛ばされた。
「誰が信心深いって? そんな人間なら、こんなお楽しみは知らないさ」
 アーネストが抵抗出来ないのをいいことに、サイラスは好きなだけその体を舐め回している。再び唇を奪われるのを恐れて、アーネストは思わず結ばれた状態の手を口元に持っていった。
 何だ、自由になるのは簡単だと、そこでアーネストは気が付く。口でシャツの結び目を解けばいいだけではないか。そう思ったのに、アーネストは出来なかった。
 サイラスが気付くからではない。こうして縛られているから、抵抗も出来ずに言いなりになっているという口実が、アーネストには必要なことが分かってしまったからだ。
「んっ……んん」
 犯されることを望んでいるのか。
 本当にアーネストは、待っていたのだろうか。
 縛られたままの手で、サイラスを思い切り殴ることだって出来る。それでサイラスに殴り返されたって、後で暴行の証拠になるのだ。痣の一つや二つ、覚悟すればいい。
 そうも思えるのに、アーネストはされるままになっている。
 サイラスの唇は、何の遠慮をすることもなくアーネストの体を這いずり回っている。決して嫌な感じはしなくて、むしろ気持ちがよくなってしまうのが、アーネストの困惑をますます深めていく。