ちょこよみリンクス

「あかつきの塔の魔術師」夜光 花(ill:山岸ほくと)

あらすじ
――ヤンデレ魔術師×ダメっ子王子――
 長年隣国であるセントダイナの傘下にある魔術師の国サントリム。代々人質として、王子を送っており、今は王族の中で唯一魔術が使えない第三王子のヒューイが隣国で暮らしている。魔術師のレニーが従者として付き添っているが、魔術が使えることは内密にされていた。口も性格も悪いが常にヒューイのことを第一に考え行動してくれる彼と親密な絆を結び、美しく育ったリューイ。しかし、セントダイナの世継ぎ争いに巻き込まれてしまい…。

本文より抜粋

 不思議な出来事が起きた。
 瞬きをした矢先、目の前のレニーの姿が変容したのだ。
「え…っ!?」
 見間違いかと思い、ヒューイは目を擦って目の前に立っているレニーを凝視した。レニーは体つきが別人のようになっていた。服の上からも分かるくらい豊満な胸、たおやかな手足、細い腰───顔は確かにレニーなのだが、男の時のレニーと違い、ちゃんと女性に見える。綺麗な顔立ちのせいか、目じりが切れ上がった美人だ。扇情的なまでに赤い唇はふっくらとして誘っているようではないか。着ている物も胸元が大きく開いた身体の線が分かるドレスだし、一体どうなっているんだ。
「な、な、な……」
 レニーが突然女性に変化したので、ヒューイは呆然としてしまい、二の句が継げなくなった。レニーは動揺する様子を気にも留めず、どんどん近づいてきて椅子に座っているヒューイに迫ってきた。
「王子、じゃあこれならどうです?」
 レニーの声はいつもより女性っぽい高さがある。ほっそりとした指でヒューイの顎を撫で、胸の谷間を目の前に寄せる。芳しい匂いに頭がくらりとして、ヒューイはむっちりとした胸に釘付けになった。
「ど、どう……って」
「この姿なら私を選んでいただけますか?」
 レニーは大胆にヒューイの上に跨ってきた。柔らかい女性の太ももに身体が密着して、ヒューイは真っ赤になって硬直した。身体中の血液が下半身に集まる気がする。目の前の美女のことで頭がいっぱいになる。
「ねぇ……王子」
 レニーが顔を近づけて赤い唇を寄せてきた。目の前の存在の正体を忘れて、ヒューイはふくよかな胸に触りたくてたまらない気持ちになった。レニーのさらさらした黒髪が頬にかかる。キスをされると分かっていたが、豊満な胸が押しつけられて、その心地よさにうっとりとして拒否しなかった。否、むしろ腰に手を回していた。
 柔らかな胸が頭の芯を痺れさせる。唇が重なって、ぞくぞくして鼓動が波打った。初めてのキスの感覚は大きなものだった。唇を啄まれるだけで、背筋にぞくりとした寒気にも似た甘い感覚が這い上がってくる。
 女性の細い手が下腹部を撫でてきたとたん、ヒューイは自分の身体が変化しているのに気付いた。
「───王子、ほらやっぱりあなたが選ぶのは私でしょう」
 いつものレニーの声が聞こえてきて、ハッとしてヒューイは目を開けた。豊満な胸も芳しい匂いもいつの間にか消えていた。目の前にのしかかってくるのは男のレニーだ。
「わああっ!!」
 現実に戻ったショックでヒューイは大声を上げて、後ろにひっくり返った。椅子が倒れ、ヒューイは床に放り出される。つい先ほどまで自分の上に跨っていたレニーは、とっくに立ち上がってヒューイを見下ろしている。
「レ、レニー、お前、い、今のは何だ!」
 さっきまでいた絶世の美女が消えて、恥ずかしさにのたうちまわってヒューイは叫んだ。女性版レニーの色気にくらくらきて、あやうく騙されるところだった。
「変化の術ですよ。まぁ正しくは私が変化したというより、相手にまやかしの術を施しているだけですが……。しかし、王子。あれくらいで勃起させるとは、何とはしたない。それともそれほど私がお好きなので?」
 レニーに下半身を指差され、ヒューイは慌てて起き上がって背中を向けた。敏感に反応してしまった己の身体が情けない。
「お、お前が女に化けるからだろ! 俺のせいじゃないっ」
 気を静めようとレニーから離れて部屋をうろつきだすと、嬉々とした様子でレニーが追ってくる。
「王子、これで分かったでしょう。あなたは私が好きなんですよ。私じゃなきゃ駄目なんです。だって今私は本当は男のままだったんですよ。それでもそうなったということは」
「ちっとも分からないよ! 追いかけてくるなって!」
 ヒューイの部屋は二部屋あるのでそちらに逃げても、レニーは背後から肩を抱いて迫ってくる。
「じゃあ王子、聞きますが私のことは好きでしょう? 無論嫌いじゃありませんよね」
 大きな鏡のある寝室まで追いやられ、レニーに訳の分からない質問をされた。
「嫌いなわけないだろう。困った奴だが……」
 鏡越しにレニーの機嫌のよい顔が見える。ヒューイは意味が分からず、いぶかしげな声を出した。
「ほらね。なら私でいいじゃないですか。若い女性がいいなら、たまに幻想を見せてあげますし」
「え……」
 再びあの美女に会えるのだろうかと思い、ヒューイは期待に満ちた眼差しで振り返った。レニーはその反応は気に入らなかったらしく、ヒューイの耳を摘み上げる。
「あなたは分かってないようですが、あなたと実際キスしたのは男の私ですよ。つまりあなたは女性ではなく私がいいのです。真に欲しているのは私なのです」
 レニーに力強く断言され、ヒューイはそんなはずないと首を振った。
「ち、違う、俺がくらっときたのはあのふんわりした胸……」
「いいえ、あなたが深層意識で求めているのは私です。私、この私」
 ヒューイの言葉を強引に遮って、レニーが両頬を手で包み込む。今度は男のレニーにキスされそうになって、慌ててじたばたした。男のレニーとはキスする気になれない。