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「闇の王と彼方の恋」六青みつみ(ill:ホームラン・拳)

あらすじ
 雨が降る日、どこか懐かしく感じる男・アディーンを助けた高校生の羽室悠。人間離れした不思議な魅力を持つアディーンに強く惹かれるが、彼は『門』から来た『外来種』だと気づいてしまう。人類の敵として忌み嫌われ恐れられている彼の存在に悩みながらも、つのる想いが抑えられず隠れて逢瀬を続ける悠。しかし、『外来種』を人一倍憎んでいる親友の小野田に見つかり、アディーンとの仲を引き裂かれてしまい――。

本文より抜粋

「アディーンはそんなじゃない!」
 外来種が忌み嫌う太陽光ライトに照らし出されながら、アディーンは他の外来種のようにうろたえもせず逃げ出そうともしない。逆に落ち着き払った様子で、鐵を睨みつける。
「わたしが外来種? 君は夢でも見たのか」
 氷の刃のようなその視線に鐵がひるむ。その隙に、悠は身をよじって幼なじみから身をもぎ離した。そのままアディーンに駆け寄ろうとした背中に、鐵の悲痛な叫びが食い込む。
「ユウ、目を覚ませ。おまえ騙されてるんだ!」
 騙されてる。
 そのひと言が悠の足を鈍らせた。たぶん、胸の奥でくすぶっていた不安の火種を引きずり出されたせいだ。悠の迷いを敏感に察知したアディーンが、わざと泰然とした態度で手を差し出してくる。
「悠、こちらへ」
「行くな、ユウ! そいつはおまえを利用しようとしてるだけだ」
 悠は立ち止まったままアディーンを見て、鐵を見て、もう一度アディーンを見た。彼の瞳は内心の動揺を示すように、これまで見たことのない色合いを帯びている。後悔? 後ろめたさ?
「アディ…ン」
「ユウ、駄目だッ! 行けば人質にされる」
「…人質?」
「そいつ、何度も封印施設の周辺をうろついてた。ユウのおやじさんが勤めてる第一門だ。それにユウのおふくろの研究所のことも嗅ぎまわってた」
「う…そだ」
「嘘じゃない! 俺はちゃんと調べた」
 悠の気持ちが揺れたことに勢いを得たのか、鐵はアディーンに向かって怒鳴りつけた。
「化け物! ユウに近づいた目的は何だ!?」
 強い風圧を受けたように、アディーンが一瞬、わずかによろめく。
「言えないなら俺が言ってやる。ユウを利用して、研究所や封印施設のことを調べたかったんだろ。目的は狩られた仲間の復讐か、それとも『門』の解放か? 仲間を大量に呼び寄せて、俺たちを襲わせるつもりかッ?」
 アディーンはバカバカしいとばかりに肩をすくめてみせた。酷く人間くさいそのしぐさが、悠の瞳には却って虚しく映る。アディーンは仲間を集めて故郷に連れ戻すと言った。伴侶という、魂を分け合うほどの存在がいると言った。
 ──こちらの世界に詳しくなったとたん、僕の前になかなか現れなくなった。僕を抱いて満腹したら、現れなくなった。
 これまで漠然と抱いていた疑問。全ての辻褄が合う答え。
「…僕は、利用されただけ?」
「悠、ちがう。だめだ、それ以上疑いを抱かないでくれ。君の力は強くわたしに影響する。わたしたちは…──」
 アディーンの声は悠の不審を感じ取って不安気にゆらぎ出し、再び照射された太陽光ライトの鋭さによって遂に断ち切られた。眩しい光に塗り潰されて、アディーンの黒い輪郭が弱まりにじんでゆく。
 さっきは平気だったのに。悠の中でアディーンへの不審感が膨れ上がるのに比例して、アディーンの存在が不安定になるのを感じた。
「アディーン、僕は…」
 断じてあなたの破滅を望んでいるわけじゃない。傷つけたいわけでも、捕まえて断罪したいわけでもない。だけど、心の中で勝手に膨れ上がっていく悲しみと絶望、見たこともないあなたの『伴侶』に対する嫉妬を、どうしたら静められるのかわからない。
「失せろ、化け物! ユウは渡さない!」
 鐵の叫びとともに、煌々と照らされたライトの中からアディーンの気配が消えた。
 同時に強く風が吹く。公園の樹々が一斉にざわめいて、乾いた葉の音が潮騒のように打ち寄せる。
 頬や額に痛みを生むほど強い風は、まるで悠を責めるように、その夜、いつまでも吹き止むことはなかった。