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「恋愛独占法」桐嶋リッカ(ill.元ハルヒラ)

あらすじ
 天然でおっとりとした性格の高校生・仁射那には、スポーツ万能の和史と、優等生な歩という親友がいる。それぞれ二人とは、食事を奢ってもらったり、勉強を教えてもらう代わりに戯れのような「触れあいっこ」をしていた。また行為中に、二人から「好きだ」と言われるが、本気にはしていなかった。だがある日、和史と歩から同時に告白されてしまう。返事ができなかった仁射那は、口説いてくる二人のどちらかを、一週間後に選ばなくてはならず――!?

本文より抜粋

 後ろに関しては指で弄られても、快感を覚えたことなど一度もない。それなのに先週はなぜかことあるごとに入れようとしてくるので、実は難儀していたのだ。
「カズシはいつから俺が好きだったの」
「さあな、気がついたらそういう目で見てたんだよ。おまえ男だから、最初は気のせいかと思ってたんだけど……」
 そうじゃなかったっつーわけ、と和史がふっと口元を緩める。
 歩と違い、和史は本当のことしか言わない。そろそろ社交辞令を挟むくらいのスキルを身につけた方がいいんじゃないかと、こちらが心配になってしまうほど歯に衣着せない物言いが和史の特徴でもあった。だからいまの言葉にも、嘘はないとわかる。
(じゃあ、どうして……)
 二人に以前から、そんなふうに思われていたのだとして――。
「なんで、今日になって告白なの?」
 機会ならいままでにもいくらだってあったはずなのに。
 なぜこのタイミングで、しかも二人同時なのか。
 仁射那の問いかけにまたも顔を見合わせた二人が、今度はばらばらに重く息をついた。
「あのね、ニーナの体を好きにしてるのが、俺だけならべつに問題なかったんだよ。わざわざ告白する気もなかったしね。でも」
「誰かと共有なんて冗談じゃねえっ」
 そう吐き捨てた和史に同意するように、深く頷いた歩が、「要はそーいうこと」と軽く肩を竦めてみせる。
「俺らはどっちも、ニーナを独り占めしたいんだよ。自分だけのモノにしたいわけ。そのための宣戦布告っていうかね」
「宣戦布告?」
 話の流れにいまひとつ乗りきれず、反問しながら首を傾げた仁射那に、歩がにっこりと表情を綻ばせた。通路を挟んだ隣で不機嫌げに腕を組んでいた和史が、機を待っていたように顎先を上げる。
「白黒はっきりさせんだよ」
「シロクロ?」
「そ。これから一週間かけておまえのこと口説くから。最終日にどっちか選べよな」
「は?」
「ああ、もちろん『どっちも無理』って選択肢もアリだからね」


 安心してと歩に笑いかけられるも、はたしてどのへんがどう安心してなのか、皆目見当もつかない。意味がつかめないまま瞬きをくり返したところで、歩の携帯のアラーム音が鳴った。
「ああ、時間だ。生徒会室にいかなくちゃ」
「俺も部活だ。もう遅刻だけどな」
 言うだけ言って立ち上がった二人を、
(えーと?)
 仁射那は混乱した頭のまま、ただ眺めるしかなかった。だが。
「ま、ニーナ、流されやすいからね」
「一週間もありゃ楽勝っつーか」
「楽勝?」
 意味ありげに視線を交わした二人が、ふっとそれぞれに忍び笑うのを見た瞬間。
(宣戦布告ってそういうこと?)
 カチン、とこめかみが鳴った気がした。
「――わかったよ。受けて立つ」
 落とせるものなら落としてもらおうじゃないか。気づいたら胸を張ってそう宣言していた。
 あとから思えばほとんど脊髄反射、考える間もなく口にした答えだったのだが、もしかしたらそこまでが策士・歩の計算だったのかもしれない。
「よかった。ニーナなら乗ってくれると思ってたよ」
 歩がぽんと肩を叩いてくる。
「今日はもうタイムリミットだけど」
「明日から覚悟しとけよ?」
 かたやニッコリと、かたやニヤリと笑ってから踵を返した二人の背中を、
「そっちこそな!」
 と叫びつつ見送ってから、数分後――。
「ど、どうしよう……」
(ていうか、何この展開……?)
 ようやく自らが乗った話に思いをめぐらせる余裕が出てくるも、すべてはあとの祭りだ。勢いでとんでもないことを受諾してしまった気がして、いまさらながら青褪めたい気持ちに駆られる。