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「マティーニに口づけを」橘かおる(ill:麻生海)

あらすじ
 勤め先の社長である芝浦に弱みを握られ、二年もの間愛人生活を強いられてきた氷崎。今の生活から脱却するため、氷崎は芝浦に陥れられて会社、家、何もかもを奪われた男・大堂に近づく。芝浦を失脚させようと二人は新たに会社を設立し、芝浦の会社を脅かしていく。そんな中、氷崎は大堂の優しさや、おおらかな性格に触れ、徐々に彼に惹かれて行く。しかし、芝浦は氷崎に対して執着を見せ…。

本文より抜粋

 大堂はひとしきり玲司の口腔を荒らして、顎に舌先を伸ばしていった。かと思うと、位置をずらして耳をしゃぶりにくる。耳朶をねちゃねちゃと嬲られ、項に伝い下りていった唇が、軽く歯を立てて移動する。
 しかし痕が残るほど強くは噛まない。
 物足りなくて、自分から喉を上げた。滑らかな肌を晒し、大堂の舌を導く。軽く笑った気配を感じて、閉じていた目を開けると、大堂の食らいつくしそうな眼差しに捕らえられた。
「今は我慢しておく。ほかの男の痕を見た芝浦が逆上して、何をしでかすかわからないからな。……これ以上君がいたぶられるのは見たくない」
 貪欲に欲しがる目の光とは裏腹に、大堂の言葉は思いやりに満ちていた。
「いい、好きに……して」
 言いながら玲司は、自ら身体を押しつけていった。
「我慢できるような情ならいらない。もっと欲しがって」
「君が軛を振り切って、完全に自由になったらそのときは……」
 言いさして、大堂は愛撫に戻った。手は玲司の陶器のような滑らかな肌を狂おしく味わい、唇がそのあとに続く。
 胸の尖りを舌で突つかれ吸われると、えも言えぬ快感が背筋を往復する。
 じっくりと炙られるような愛撫で、すでに絞り尽くされたと思っていた玲司のそこが反応した。
 僅かに勃ち上がった昂りを、大堂は嬉しそうに掌に受ける。
「一緒にイこう」
 ゆっくりと揉み込まれて、反応は鈍かったがそれでも少しずつ硬さを増していく。仕込まれた悲しさで、そうなると後ろにも愛撫が欲しくなる。
「こんな身体には、なりたくなかったんだ」
 切なく呟きながら、大堂の手を取り、そっと己の窪みに導いた。
「嫌でなければ、触って……」
「嫌じゃない。むしろ欲しい。だが……」
 指の挿入に大堂は躊躇った。
「いいから」
 触れられただけでぴりっと痛みの走るそこは、傷ついているのだろう。情欲を漲らせながらも、躊躇うところに大堂の思いやりを感じる。
 尻に当たる彼の昂りの大きさを思えば、おそらくぎりぎりのところで自らを制しているはずだ。その鉄の自制心に感心する。
「記憶を、塗り替えて欲しい。無理やりされて感じるのではなく、自分から欲して感じるのだと」
 だから、そのたがを外すよう誘惑する。言いながら、そうだったんだと自分で納得した。大堂を挑発したのは、芝浦の記憶を大堂の記憶で消してしまいたかったのだと。
 大堂が指を挿れてきた。これ以上傷口を広げないように慎重に進んでくる。それは、そこで感じることを知っている身体には、ひどくもどかしい動きだった。
 玲司は自分から腰を揺すった。指がいいところに当たるよう、位置をずらしていく。大堂がふっと微笑んだ。抱き寄せて、唇を押し当ててくる。
「感じるなら、声を聞かせてくれ」
「男の喘ぎ声など、みっともないだけだ」
「そんなことはない。聞きたい……」
 睦言のように囁かれて、玲司は硬く閉ざしていた唇を解いた。
 奥に差し込まれた指が、こりこりした部分を探り当てる。そこを突かれると仰け反って身悶えせずにはいられない。同時に甘い声が零れ落ちた。
「あぁ……っ、いい……、んっ」
 玲司の動きで、湯がパシャンと撥ねた。
 大堂が屈み込むようにして胸の尖りを口に含んだ。指はいったん引いていったあと、二本になって戻ってきた。そして昂りに触れた手が、次第に刺激を強くしながら扱き上げてくる。
「あ、あ、……やぁ」
 次々に口から出ていく艶声は、玲司が感じていることを示していた。
 湯気と汗で濡れた髪が額に張りつき、艶めかしい風情を醸し出している。三カ所を一度に刺激されて、無意識に身体を捩りながら上り詰めていく。
 だが先ほどまでの荒淫で、最後の階を飛び越えることができない。
 快感が逆流するように身体中を侵し、玲司は苦しそうな息を吐く。
「なんとかして」
 と大堂にしがみついた。
「苦しい……、イき…たい。でも……、イけない」
 自ら腰を揺すり、それでもイけない苛立たしさに、力の入らない手で大堂を叩く。
「イかせてやる」
 集中して攻めていたすべてをいったん引き、大堂は玲司を湯船の縁に掴まらせるようにして膝立ちの姿勢を取らせた。そして両腿をきつく閉じるように両側から手を添え、背後から覆い被さったのだ。
「な、に……?」
 閉じた腿の間に熱くて硬いものが差し込まれる。それは、玲司の昂りの裏筋や、袋から蕾に至るひどく脆い部分を凄まじい勢いで擦り上げてきた。
「ああっ」
 縁に掴まった手に、ぐっと力が入る。腰を背後に突き出すようにされ、腿の間を大堂自身が何度も往復する。その間に昂りをこね回され、乳首を引っ張られ、項を甘噛みされて、快感があちこちから湧き起こった。それらが一気に脳髄まで駆け上がり、熱く焼き尽くしていく。
 白熱の光が脳を包み込む。挿入もされていないのに、蕾の奥が感じていた。
 前と後ろと、そして身体のあちこちに散らばる性感帯を、大堂は的確に次々に刺激してくる。
 中途半端に勃っていた昂りが、どくどくと脈打ち始めた。今にも弾けそうに硬くなる。
「イけそうか」
 後ろから回した指で乳首を抓りながら、大堂が聞いてくる。
「あ、やぁ……っ」
 答えるどころではなかった。湯が揺れ動き、縁を越えて零れていく。背後から激しく突かれ、玲司自身も身を揉むようにして上り詰める。
「や、イく……、イく」
 譫言のように呟きながら、身体を突っ張らせる。仰け反ると大堂の厚い胸に受け止められた。
「俺も、イくっ」
 大堂が腰を激しく動かし、玲司の昂りを擦り立てた。越えられなくて苦しんだ高みを、ふたりで一気に飛び越えた。
「ああぁぁぁ……っ」
 玲司は首を振り、声を上げながら達した。そのまま長い失墜感に心と身体を浮遊させる。
 大堂が湯を抜き、頭からシャワーを浴びせかけた。さっと洗い流してから、改めて湯を入れる。次第に湯が溜まっていった。
 その間も凭れ掛かっている背後から、ほっとするような温かみが、伝わってきた。大堂が揺るぎなく受け止めてくれたから、安心していられる。
 男にされて感じるなどとんでもないと思っていたのに、相手によるのだとわからされた。指の先まで心地よさに包まれ、屈辱を感じるどころではなかったのだ。
 こういうセックスなら……。
 忘我の境地から、なかなか下りてこられない。本当に気持ちがよくて、意識がゆらゆらとたゆたっているのだ。