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「脚本のないラブシーン」風見香帆(ill:北沢きょう)

あらすじ
 あるきっかけで幼い頃から時代劇ドラマで活躍していた人気俳優・日暮鷹之の付き人になった令也。彼の大ファンである令也は、鷹之からミーハーなファンと勘違いされ、冷たい態度をとられていた。それでも鷹之の家に住みながらDVDやビデオ、雑誌の整理などの、他人は嫌がるが令也にとっては嬉しい地味で細かい作業をこなしていた。そんなある日、酔った鷹之にキスされてしまった令也。面白がっているとわかっていても反応してしまう自分に令也は…!?

本文より抜粋

「下心があるなら本音を言え。俺はゴマをすられるのが一番嫌いなんだ」  そんなつもりはない、と口を開きかけた令也の肩にいきなり手が回されて、ぐいと鷹之のほうへ近づけられた。
「本音か嘘か試してやる」
 持っていたグラスが揺れて令也が慌てると、さらにその手は後頭部へと回される。
「わっ、えっ?」
 鷹之の顔が目の前にアップになり、ぶつかる、と思った瞬間。唇に濡れたものを感じた。
「ん……んっ!」
 ―――もしかして自分は今、日暮鷹之と……キスをしてる。でも、なんで。どうして男同士でキスなんだ。しかも俺のファーストキス!
 うろたえる令也の膝の上に、倒れたグラスの中身が零れる。
 鷹之の腕は力が強く、カウンターの椅子は高くバランスが取れなくて、令也はろくに動けない。
 鷹之の舌は、からかうように令也の下顎を幾度もくすぐり、離れたと思ってもついばむように、何度も唇を弄る。
 令也はなにも考えられず、されるがままにじっとしていた。
「……はは! なんだお前、その顔!」
 ようやく身体を離した鷹之は、呆れたように笑う。
 令也は目を丸く見開き、唇もぽかんと開けたまま、酒で服を濡らして呆然自失の状態だった。それがおかしいと、鷹之はなかなか笑いを収めない。
「こ、こんなことされたら……誰だって、どうしていいかわからなくなります」
 ようやく我に返った令也は、恥ずかしさに俯いた。唇がまだ濡れていて、思わず拭おうとした手を鷹之につかまれる。
「なんだよ、本当に俺のファンだったら、ちょっとは嬉しそうな顔をしろ」
「そんな。俺は、鷹之さんの演技が好きだから、こんなことは……っ、ん、ん……っ!」
 もう一度鷹之の唇で唇を塞がれて、令也はぎゅっと目を瞑る。
 きっとすごく酔っているのだから、気が済むようにさせるしかない。こんな程度のことをされても、減るものではないのだし。
 そう考えて我慢しようとするが、令也には女性経験がなかった。他人に自分の舌を吸われる、という感覚に、頭の奥がじんと痺れてくる。
「ん、ふ……んぅ」
 執拗なくちづけに、令也はすがるように鷹之の二の腕をつかんだ。
「はぁっ……」
 やがてゆっくりと離れていく鷹之の唇が、細く唾液の糸を引くのを見て、ぼっと火がついたように身体が熱くなるのを感じる。
「お前、童貞か。大人のキスに慣れてないんだろう」