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「恋するカフェラテ花冠」妃川螢(ill.霧壬ゆうや)

あらすじ
 アメリカ大富豪の御曹司・宙也は、興味のない稼業を双子の兄・嵩也に丸投げし、母の故郷である日本を訪れた。ひと目で気に入ったメルヘン商店街でカフェを開いた宙也は、斜向かいの花屋の花屋のセンスに目を惹かれ、毎日花を届けてくれるように注文する。しかし、オーナーの志馬田薫は人気のフラワーアーチストで、時間が取れないとあえなく断られてしまう。仕方がなく宙也は花屋に日参し、薫のアレンジを買い求めるが、次第に薫本人の事が気になりだし…。

本文より抜粋

「なんだ、あれは!」
 向け場のない怒りを、向けるべきではないとわかっているはずの相手に向けて吐き出す。
「親ってやつは本当に勝手だよ! 子どもを自分の手駒くらいにしか考えてない!」
 紡がれる文句には、たぶんに自身の過去が重ねられていた。向ける相手が違うとわかっていながらも、制御できない感情は、いったんすべて吐き出すよりほかない。
「あれが親の言うことか!? こっちの気持ちなんておかまいなしに勝手なことばっかり……!」
 叫んで、やっとひとつ息をつく。そのときになってようやく薫の顔がまともに目に飛び込んできて、宙也はじわじわと後悔の念におそわれた。
「あ……」
 ごめん……と、口中でびの言葉を転がす。
 どれほどロクでもなかったとしても、薫にとっては実の父親だ。宙也の雑言は、聞いていて気持ちのいいものではないはずだ。
「ごめん、言い過ぎた」
 いまさらのように青くなって、やってしまった…と先の態度を反省する。
「どうしよう。僕のせいで……」
 ただでさえ複雑な親子関係を、さらに面倒なものにしてしまった。薫の立場が悪くなったら、それは自分のせいだと、いまさらな動揺に慌てる。
「これ以上こじれようのない親子関係だ。なんの問題もない」
 薫は平然と返して、今度は焦りのあまり胸倉に掴みかかってきた宙也の痩身を受けとめた。
「でも……っ」
 あれはちょっとやりすぎだったかもしれないと言い募る。すると薫は、口許に宙也の見慣れた意地悪い笑みを浮かべて、揶揄以外のなにものでもない言葉を返してきた。
「なんだ? らしくないな」
 そんなことを気にするなんて、とされて、宙也はとたんにムッと唇をヘの字に歪めた。
 乱暴に薫の胸元から手を放して、むすっと背を向ける。
 せっかく謝ったのに! と全身から不機嫌オーラを発して、カウンターに背をあずける恰好で腕組みをした。ふんっとあらぬ方を向く。
「あーあ、らしくないことしちゃった!」
 これみよがしに、大仰に愚痴ってみせる。
「嵩也にはあとから絶対に文句言われるし! リッケンバッカーの名前になんか頼る気なかったのに! 面倒なことは嫌いなのに!!」
 なんであんなことしちゃったかなっ、とブツクサと文句を垂れる。
 そんな宙也の傍らに歩み寄り、カウンターに囲い込むように手をついて、薫は怒りに朱に染まる耳朶に、「しょうがないだろう?」と潜めた声を落とした。
「……?」
 なにが? と胡乱な眼差しを向ける宙也に、薫はニンマリと口角を上げることで応える。
「俺に惚れてるんだから。その俺のためにらしくないことをしても、それはしょうがないことだ」
「……」
 サラリと、しかし自信満々に告げられた言葉は、いったん宙也の鼓膜を素通りして、戻ってきたあとでその言葉の意味をしっかりと伝えた。
「な……っ」
 ぼふっと音がしそうな勢いで真っ赤になった宙也は、それでも往生際悪く、「なんの話だ!」と噛みつく。
「ず、図々しいにもほどがある! 誰がおまえなんかっ!」
 図星を刺されて焦りまくっているだけであることは傍目にわかりやすすぎるのだが、動揺激しい宙也に、素直になれと言ってもそれは無理な相談だった。
 悔しいし恥ずかしいし、絶対に認めるものかと意地になる。認めたら、なんだか負ける気がするし、その先になにが待っているかもわからない。
 く宙也を、薫は間近に目を細めて見つめる。
 可愛くてしかたないとはこのことだと、その眼差しが告げているものの、半ばパニックに陥った宙也には通じない。
「違うのか?」
「違うに決まってるだろ!」
 打てば響くように返したあとで、口にした言葉に後悔して「あ……」と言葉をつまらせる。そんな自分に動揺してまた真っ赤になって、宙也は間近に迫る広い胸をぐいぐいと押し返す。──ものの、まったく歯が立たない。
「そうか」
 ひとつ頷いて、薫は宙也の腰に腕をまわす。ぐいっと抱き寄せられて、バランスを崩し、逞しい胸に囲われた。
「え? ちょ……っ」
 顔を上げたタイミングを狙われていたのだと、唇を奪われてから気づく。
「……んんっ」