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「神の蜜蜂」深月ハルカ(ill.Ciel)

あらすじ
 上級天使のラトヴは、規律を破り天界を出た下級天使・リウを捕縛するため人間界へと降り立つ。そこで出会ったのは、人間に擬態した魔族・永澤だった。天使を嫌う永澤に捕らえられ、辱めを受けたラトヴは逃げ出す機会を伺うが、共に過ごすうちに、次第に永澤のことが気になりはじめてしまう。だが、魔族と交わることは堕天を意味すると知っているラトヴは、そんな自分の気持ちを持て余してしまい…。

本文より抜粋

「……いつまで」
 自分はこうしてここにいるのだろう。
「貴方が飽きるまで、こうして閉じ込められていなければならないのですか」
 もう、何事もなく帰れる事態ではなくなっている。けれど、この状況を望んでいるのは永澤だけで、自分ではない。
 冷ややかな目をした男を睨んだが、すっと手が頬に伸ばされた。
「その顔で睨まれても迫力はないな」
「……」
「こんなに気に入ったのは初めてだ」
 頬に触れる指が、微細な熱を伝えてくる。
「馬鹿な…」
 有り得ない…、そう首を振ると永澤が目を眇めた。
「とことん鈍い奴だな。どうして手間暇をかけたと思っている」
「何を…言って…」
 理解できない………わかりたくない……。
 だが、永澤の目に魅入られたように視線をらせない。
「口説いてるんだ……お前は遠回しに言っても解らないらしいからな」
「……」
「お前が欲しい」
「…!」
「天界など捨ててしまえ」
 部屋に低く響く声に耳を疑う。
「俺を選べ…」
 髪の間を指が滑り、頭が引き寄せられ、塞いで、永澤の肉厚的な唇に思考が奪われていく。
 ……こんなことはおかしい。
 間違っている。動けない自分は何かを間違えている。
 憎まなければいけない…これは、すべき堕天の魔族で、己を辱め、貶めた男だ。
「…っ!」
 手を挙げ、力いっぱい頬をめがけて叩き、部屋には派手な音が響いた。
 打った自分の手が震えている。少しだけ顔を背けた永澤が不思議な笑みを見せた。
 皮肉でもなく、あの冷ややかな笑みでもなく、苦笑したような顔は感情が読めない。
「…それだけ気力が戻ったのなら、世話を焼いた甲斐はある」
「…」
「まあ、逃げたいならやってみるんだな」
 言い捨てて、永澤は離れていった。
 外は何も変わらない静けさで、自分の心だけがさざ波立つ。
 心臓が不規則に波打っている。
 動揺は救出の機会を逃したせいではない。
 助けを呼べなかったことに自分は嘆かなかった。ただ、永澤の言葉に我を失ったのだ。
「……」
 考えたくない。永澤の真意など知りたくない。
 自分には関係のない感情だ。
〈お前が欲しい…〉
 脳裏で何度も繰り返す言葉が消せなくて、ラトヴは眉根を寄せて目を瞑った。