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「愛しい眠り」清白ミユキ(ill:高宮東)

あらすじ
都立病院で麻酔科医として勤める繊細な美貌を持つ結衣章人。勤続四年目ともなり麻酔の重要さ、患者との信頼関係の大切さを身にしみて感じていたある日、アメリカから有名な外科医である真岡亮冶が新たに配属されてきた。患者とまったく交流の取る様子のない真岡に対し結衣は反発を覚えるが、彼が自分と同じく過去に大事な人を亡くしていたという心の疵を知る。真岡の事を知るにつれ、彼が気になり出す結衣だったが…。

本文より抜粋

「この分じゃ、今夜はお預けだな」
「なにがですか?」
 彼に瞳を向ければ、さらに苦笑が返される。
「ベッドに誘おうと思ったんだが」
「な……ッ!?」
 目を大きく開いて絶句し、亮冶を見つめる。
 そんな章人とは違い、亮冶は淡々と告げてきた。
「気長に待てるほど、余裕のある恋じゃないんだ」
 怖いくらい真剣な目で見られて、唾を嚥下する。
 ただ見つめられているだけだというのに、彼の差し迫った情熱が伝わってくる。
 この人は、静かに情熱を燃やすタイプだ。
 表にして騒いだり喚いたりしない分、少し怖さもある。どちらかというと、感情を表にしやすい自分とは、真逆に位置する人。
 それなのに、根底が繋がり合っている。そんな不思議な感覚を受ける。
 ただジッと見つめていると、ふっと亮冶が笑みをこぼす。
「とりあえず、彼女の手術が終わるまでは、お預けだな」
 待てないと言いながら待ってくれる。そこに彼の優しさを実感して、さらに愛しさが増す。
 知れば知るほど好きになる。どうしようもないくらい亮冶に惹かれる。
(もう、こんなに好きなのに)
 これ以上彼を知ったらどうなってしまうのだろう。恐ろしさを秘めながらも、恋情は止められなかった。
「今夜はどうする? 帰るか?」
 加奈のことがあったので、帰宅も迷う。軽く思案して、もう少し残ることを決めた。
「整理しかけの書類を、仕上げてから帰ります」
「そうか」
 少し残念そうに笑う彼が、「お疲れさま」と挨拶を向けてくれる。同じように返そうとして、けれど言葉を止めた。
「そういえば……さっき、なんであんなこと言ったんですか?」
 どうしても気にかかったので、問いかける。
 なんの話だ? と言う顔をされたが、すぐに理解してくれた。
「『絶対』なんて言葉、使わないと思ったんだろう?」
「ええ。だって、あなたには……」
 使えない理由がある。そう続けようとしたが躊躇われて言葉を止めるが、彼は察してくれた。
「俺にも、支えができたからな」
 熱のこもった目で見つめられれば、さすがに章人だって気づく。
「あ……俺ですか……」
 また顔に熱が帯びていくから、視線を彷徨わせる。
 恋愛に不慣れな少年のように狼狽える章人に、亮冶から三度目の苦笑がもれた。
「やっぱり、俺の部屋に寄っていかないか?」
「か、からかわないでくださいっ」
 赤い顔で軽く睨むが、逆に欲望を滾らせた瞳で見つめ返されて息を呑んだ。
 今すぐにでも欲しい、と言われているような視線で見られるのが恥ずかしい。このままでは羞恥が収まりそうになくて、真っ赤な顔で今度こそ挨拶を向ける。
「それじゃあ、お疲れさまでした」
 頭を下げて部屋に戻ろうと踵を返した。
 その背に、亮冶の声がかかる。
「恋人にならないか」
 唐突な申し出に章人の歩みが止まった。
 驚きの表情でぎこちなく振り返れば、彼の真剣な瞳が見つめていた。
「お前を、もっと知りたい」
 告白をされて、こんなに嬉しいのは初めてだ。顔に熱が集まり、喜びで身体が小さく震える。
 高鳴る鼓動を抑えながら、章人は答えた。
「俺も、あなたを知りたい」