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「カデンツァ2 ~青の軌跡<番外編>~」久能千明(ill:沖麻実也)

あらすじ
任務を終えたカイは、十数年ぶりに故郷へと降り立った。そこには月の行政長官であり、カイをバディ飛行へと駆り立てた原因である義父、アドミラル・ドレイクが待っていた。以前と変わらぬ故郷に苛立ちつつも、義父への複雑な想いと執着にけりをつけようとするカイ。そこに思いがけない人物、近衛凱が現れる。彼とドレイクには何か秘密があるのを感じるカイ。彼等の計画とは? そしてカイの決意とは? 三四郎を巻き込んで、新たな戦いが始まる――。

本文より抜粋

「きみが本気で付き合うことの出来る人間がいることが嬉しいんだ」
 眉を寄せるカイを見上げて、ドレイクが目を細める。
「彼が喚けば、きみも負けずに言い返したんだろう? 短気だと言ったが、気が短いことではきみもなかなかのモノだからね。きみのことだから、三四郎【ルビ:さんしろう】くんを何度も痛い目にあわせているのだろう?」
 事実だけに何も言えない。カイが言葉に詰まる。
「きみはプライドが高い」
 言葉を切って、真顔に戻ったドレイクがカイを見た。
「どうでもいい相手なら無視するだけだ。本気で怒ったりしない。こんな風に楽しそうに悪口を言ったり、忘れられそうだからって拗ねたりしないよ」
「───っ!?」
 目を見張るカイを覗き込んで、ドレイクが微笑む。
「きみのその目には、自分が認めた相手しか映らない。きみを本気で怒らせたり悲しませたり出来るのは、きみの心の内側まで入り込んだ人間だけだよ」
「………………」
「素晴らしいバディに出会えたんだね」
 何も言わないカイの目の中に返事を見つけたドレイクが、でも、と握った手に力を込める。
「きみを一番愛しているのは僕だよ」
「─────はい……」
 小さく頷いて、カイもその手を握り返した。
「僕はきみに愛して欲しいと願うのと同じくらい、きみが誰かと愛し合うのを望んでいる。他の誰もいらないと思えるくらい深く、心と身体を繋げて欲しい。あるがままの姿で泣いて、怒って、そして笑っていて欲しいんだ」
「……はい」
「生きることを楽しいと思って欲しい。そのままのきみを丸ごと受け止める相手と生きて欲しい。カイ、僕はきみに、幸せになって欲しいんだ。アルシノエに出会えた僕のように─────……」
 真摯に告げる語尾が擦れて、ドレイクが大きく息を吐いた。
「ふう、さすがに疲れたな……」
「眠ってください。あなたが眠るまでここにいます」
「三四郎くんの話を、もっと聞かせてくれるかな」
「長くなりますよ」
 ふふ……。猫が喉を鳴らすように笑って、カイが椅子に座り直す。
「三四郎への恨みつらみは、一晩では言い尽せませんから」
「そんなにあるのかい?」
「当然です。あの男と何年付き合ったと思っているんです?」
 目を閉じたドレイクが唇だけで笑う。
「覚悟してください。聞きたがったのはあなたです。もういいと言われても止めませんよ」
 やさしく宣言したカイが、ゆっくりと話し始めた。
「まず、三四郎との初対面の時です。コールドスリープから目覚めた私に、あいつが何と言ったと思います────?」
 甘く擦れるハスキーヴォイスが、自分と三四郎の軌跡をやわらかに紡ぎだす。
 ドレイクの規則正しい呼吸が深い寝息になり、カイの手を握り締めていた指から力が抜けるまで、カイの問わず語りは緩やかに続いた。

「私はこの先、名前を変えることはありません。死ぬまでカイであり続けます」
 カイは眠るドレイクを見つめて呟いた。
「私はあなたの息子です。あなたがカイと名付けてくれた私が、本当の私です」
 答はいらない。安らかな寝息。唇に微かな笑み。それが全てだ。
「あなたの愛し方を、教えてください─────……」
 静かに上下する胸に頬をつけて、カイはため息のように囁いた。