
「……さすがに外だからな。ちょっと摘み食いのつもりだったんだが、止まらなくなって悪かった」
二度目だが、まだとてもこんな扱いには慣れない。弘名はどういう顔をしていいのかわからなかった。
はあはあと、まだ落ち着かない荒い呼吸をするたびに、真っ白な息が大きく吐き出され、内面の興奮を晒してしまっているようで、いたたまれない。
「……なんか、格好悪いです、俺」
「うん? なにがだ」
「俺ばっかり……その、いかされて」
恥ずかしいのと恐縮するのとで、弘名は複雑な気持ちだった。
師堂はそんなことかと、くすりと笑う。
「がっつく年でもないんでね。ゆっくり時間をかけていただくつもりでいるから、気にしなくていい」「い、いただくって」
それはつまり、最後までするつもりだということだろう。うろたえていると、師堂は真顔で聞いてくる。
「今度会えるのは、再来週の末なんだが、待ち合わせは同じ時間と場所でいいかな」
「……え」
次に会う約束だと気づいて、咄嗟に弘名は返事ができなかった。
あれだけ今夜が最後だと、固く決意をしていたというのに、断りの言葉が出てこない。
「それと携帯の番号を教えてくれ。今日のように、急な仕事が入らないとも限らない」
どうするべきかと弘名は焦った。携帯の番号を教えているのは、工場の人間と祖父だけだ。
特にバーで出会った関係の人間には、決して教えまいと考えていたのに。
「携帯は……その……」
どうした、という目で師堂が弘名の顔をのぞきこむ。
頬に、温かく優しい指が触れた。
そこからなにか、胸の中が甘く満たされていくような、不思議な感覚が伝わってくる。
――駄目だ。
唇がかすかに震えた。師堂の要求を断ることにためらいがあるのは、単に快楽を与えられたからではない。
誰かに必要とされること。体温を感じ、抱き締められる心地よさ。デートコースを、肩を並べて優しい言葉を交わして歩き、恋人のように振る舞うこと。

弘名はそのどれもが未経験であり、師堂と会うまで知らない感覚だった。
教えられたすべてを忘れ、なかったことにはできない。なまじ楽しさを知ってしまっただけに、失うことが怖くなっていた。
もう少し。あとちょっとだけ、この夢から覚めたくない。
「…………教えます。再来週の約束も、大丈夫です」
か細い声で返事をすると、師堂はきつく抱き締めてくる。
弘名は唇を噛み、胸に理由のわからない痛みを感じながら、目を閉じた。