「猫のキモチ」妃川 螢 (ill.霧壬ゆうや)

あらすじ
 ここはメルヘン商店街。絵本屋さんの看板猫・クロは、ご主人様の有夢のことが大好き。ご主人様に甘えたり、お向かいの庭で犬のレオンとお昼寝したり、近所をお散歩したり…毎日がのんびりと過ぎていく。ご主人様は、よく店に絵本を買いに来る、門倉っていう社長さんのことが好きみたいで、門倉さんがお店に来るととっても嬉しそう。でもある日、門倉さんに「女性のカゲ」が見えてから、ご主人様はすっごく落ち込んでしまって…。

(本文より抜粋)

「お待たせしました。――二点で一万四千二百八〇円になります」
 門倉さんは、お財布からいつもの黒いカードを取り出す。それがピピッて機械を通って、お買い物終了だ。
 もっとゆっくりしていけばいいのに。そうしたら、ご主人さまはきっと笑ってくれるのに。
 なんだかヘンな空気。いつも門倉さんが来てくれるときとは違う。
 空気にあてられたボクは、しゅんと耳を伏せてシッポを落とす。ボクまで哀しくなってきた。
「ありがとうございました」
 カラランッとカウベルの音。
「また寄らせてもらいます」と言葉を残して、門倉さんはコインパーキングのほうへ帰っていく。きっといつもの場所に車を停めてるんだ。
 ご主人さまが、ボクを抱きしめる。ボクはご主人さまの頬に頭をすり寄せた。
「女の人……奥さんかな……それ以外にいないよね」
 いつも買ってくれる絵本の贈り先は娘さんで、今日の特別な贈り物は奥さんあて? ご主人さまは、それが哀しいんだね。
「指輪してないけど……でも、あんなに素敵な人が、独身のわけない……」
 はじめからわかってたけど…って、ご主人さまは消え入りそうな声で呟いた。
「ふみゃぁお」
 哀しい顔しないで、ご主人さま。ボクがついてるよ。
 ボクはご主人さまの肩にひしっと掴まって、頭をすり寄せた。何度も何度も。ご主人さまが、くすぐったいよって、口許を綻ばせる。
「これ以上望んじゃバチがあたるよね。大丈夫、僕にはクロがいてくれるから」
「みーう」
 ボクに人間の言葉が話せたら、ご主人さまの気持ちを伝えてあげられるのに。
「いいんだ。お話ができるようになっただけで、僕は充分幸せだから」
 ほんとう? ほんとうにそう思ってる? ご主人さま?
「お店閉めてご飯にしようか。お腹空いたでしょう?」
「なぁう」
 ボクが拾われたときには、すでにこの家にはご主人さましかいなかった。だからご飯はいつもボクとふたり。ときどき祐亮さんがお鍋片手に来るくらいだ。
 うるさいレオンが一緒でもいいから、ご飯食べに来てくれたらいいのに。そうしたら、きっと楽しいご飯になるのに。
 門倉さんのくれた猫缶、このまえ食べたときはもっと美味しかったのになぁ……。今日はあんまり美味しくないや。
 この夜ボクは、ご主人さまの腕のなかで、丸くなって眠った。ご主人さまは、「甘えん坊だね」って、ぎゅうってしてくれた。
 あったかくて、幸せで、ボクは本当にご主人さまに拾われてよかったなぁって思ったんだ。

猫のキモチ」は1月31日発売です。

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