
「お待たせしました。――二点で一万四千二百八〇円になります」
門倉さんは、お財布からいつもの黒いカードを取り出す。それがピピッて機械を通って、お買い物終了だ。
もっとゆっくりしていけばいいのに。そうしたら、ご主人さまはきっと笑ってくれるのに。
なんだかヘンな空気。いつも門倉さんが来てくれるときとは違う。
空気にあてられたボクは、しゅんと耳を伏せてシッポを落とす。ボクまで哀しくなってきた。
「ありがとうございました」
カラランッとカウベルの音。
「また寄らせてもらいます」と言葉を残して、門倉さんはコインパーキングのほうへ帰っていく。きっといつもの場所に車を停めてるんだ。
ご主人さまが、ボクを抱きしめる。ボクはご主人さまの頬に頭をすり寄せた。
「女の人……奥さんかな……それ以外にいないよね」
いつも買ってくれる絵本の贈り先は娘さんで、今日の特別な贈り物は奥さんあて? ご主人さまは、それが哀しいんだね。
「指輪してないけど……でも、あんなに素敵な人が、独身のわけない……」
はじめからわかってたけど…って、ご主人さまは消え入りそうな声で呟いた。
「ふみゃぁお」
哀しい顔しないで、ご主人さま。ボクがついてるよ。
ボクはご主人さまの肩にひしっと掴まって、頭をすり寄せた。何度も何度も。ご主人さまが、くすぐったいよって、口許を綻ばせる。
「これ以上望んじゃバチがあたるよね。大丈夫、僕にはクロがいてくれるから」
「みーう」
ボクに人間の言葉が話せたら、ご主人さまの気持ちを伝えてあげられるのに。
「いいんだ。お話ができるようになっただけで、僕は充分幸せだから」
ほんとう? ほんとうにそう思ってる? ご主人さま?
「お店閉めてご飯にしようか。お腹空いたでしょう?」
「なぁう」
ボクが拾われたときには、すでにこの家にはご主人さましかいなかった。だからご飯はいつもボクとふたり。ときどき祐亮さんがお鍋片手に来るくらいだ。

うるさいレオンが一緒でもいいから、ご飯食べに来てくれたらいいのに。そうしたら、きっと楽しいご飯になるのに。
門倉さんのくれた猫缶、このまえ食べたときはもっと美味しかったのになぁ……。今日はあんまり美味しくないや。
この夜ボクは、ご主人さまの腕のなかで、丸くなって眠った。ご主人さまは、「甘えん坊だね」って、ぎゅうってしてくれた。
あったかくて、幸せで、ボクは本当にご主人さまに拾われてよかったなぁって思ったんだ。