―その1―
(1〜9)
6/8Up!!


―その2―
(10〜19)
6/15Up!!


―その3―
(20〜32)
6/22Up!!



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■  余談。

「十左が出て来ぬのです」
 迎えに来た綾倉伯爵に、椿は引きずり出してくれと、訴えた。
 昨夜は何事もなく床についたはずなのに、十左が部屋から出てこない。
 しびれを切らした椿が寝所に踏み込むと、ぴっちり繭のように布団にくるまって、中から十左の声で、申し訳ありません申し訳ありませんと、呻くような譫言のような声がする。
 引きはがそうにも十左の力は並ではなく、まんじゅうのようになってしまった布団から十左を引きずり出すには、到底椿の力では無理だった。
 馬車の用意ができ、出立前に一緒に茶でも、と、わざわざ伯爵が誘いに来るのに。
 困り果てた椿と、数人の使用人が告げ上げる次第だった。
「何事があったのじゃ」
「さあ」
 問われても原因はわからない。腹痛かと布団の外から聞いても、申し訳ありませぬと一層高い声で繰り返すばかりで一向に要領を得ない。
「この者の布団を引き上げよ。我々は、先に室に戻る」
 使用人の鏡のような十左の、余りに珍妙な行動に、普段はああではないのです。と、椿が言い訳をすると、慣れぬ場所で急に差込みでもきたのであろう、と、最後の幸せに浸りたがる翁は、気弱な使用人のことなどどうでも良い様子で、椿を明るい洋室に誘うことに懸命だった。
 そして、長い廊下を半分ほども歩いた頃。
「お許しください千代殿ー!!」
 そんな叫び声を上げる十左に。
「何事だ」
「さあ」
 昨夜何が起こったのかは。
 その後、共に灯台で過ごした長い一生のうちにも、決して語られることはなかった。


                                 <完>


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