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「おぬしの奉公ぶり、いと有り難く重んずるべきところ有り」
何度か目に掛かった様子や、椿、或いは他の奉公人から、伝わる様子に彼はそう感じたのだろう。
畏れ多ございます、と、頭を下げ続ける十左は、次の瞬間。
「――――おぬしがたとえ、過去に大罪を犯していたとしても、おぬしなら、千代同様、命尽きるまで、椿を守るであろうことを信じる」
弾かれるように、顔を上げ。
「……っ……!」
もう一度、深く深く頭を下げた。
上手く謀ったつもりだった。或いは、未だ、謀ることが出来ているのかも知れない。
けれど、よくよく考えれば、この伯爵にして、没落したばかりの敷島の事情など、探るに余りに容易なことだっただろう。人の口に戸は立てられない。ましてや寄る辺とならなくなった家のことなら、それを売っても己の身を守りたいのが人情だ。
先代断首の噂、下手人の庭番の子どもの話、先代が死亡したとされる倉が、椿の部屋にほど近いこと、塗り込めたかのような、肩裏の火傷。
知っていて、見逃すのかも知れない。
この決心を見透かして、信頼されるのかも知れない。
「――――身を、尽くして」
頭を下げて、十左は誓った。
この信頼に椿を委ねられ、それに背かぬよう、仕えようと。
涙が落ちそうな重い信頼と許しに、深く下げる頭の上で。
「あれは香織似で頑固な上に、少々変人じゃ」
「……は、あ」
ため息混じりのそんな言葉に、思わず間抜けな返事を返してしまった。
「あの不自由な灯台が良いのだと言って、早々に帰り支度を初めておる」
「……はあ」
本来、その日のうちにも帰りたいと言っていた椿だ。屋敷を見て気が翻ればと祈ってはいたが、その様子が目に浮かぶようで、何とも言い難い相槌を打つしかなかった。
伯爵自身、あの塔を訪れたことも有り、内部も良く知っている。
決して珍しいものはなく、石造りで、湿って暗く、潮の匂いに満ちて、見えるのは海と空ばかりで、嵐が吹けば軋んで揺れ、必死で錘を巻き上げる間は、膳さえ凝ったものは整えてはやれない。
そんな場所が、この屋敷のどこが劣るのかと聞かれれば、答えようがない。けれど。
「また椿を連れてくるが良い、十左」
「はい」
椿曰く。
綾倉の家には自分がないのだと。
星空に黒々とそびえ立つ甍の山を眺めてから。
椿さまのお気が向かば、いつでも、と、心中嬉しく、十左は答えてまた、頭を下げた。
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