―その1―
(1〜9)
6/8Up!!


―その2―
(10〜19)
6/15Up!!


―その3―
(20〜32)
6/22Up!!



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 椿が、綾倉家に、まずは挨拶がてら行くことになったのは、十左の傷の瘡蓋がおち、赤みも減って、少し盛り上がったそれが螺鈿のような光りを発し始めた頃のことだ。
 最初は心配げに、忌々しげに眉を顰めるばかりだった椿も、血と膿の混じった瘡蓋が乾いて落ち、桃色の新しい肌が見え始めてからはそれが大層気に入ったらしく、傷の治り具合の確認をかねて、唐突に後ろから襟首を掴まれ肩の傷を覗かれた。
 悪い頃ならそれも通るが、治ってからの方が頻繁だったから、多分ただ物珍しく、気に入っただけに違いないと、十左は思っている。
 その前に、綾倉家の壮年の諸大夫が、自分の身体を改めにやってきた。
 身体に残る無数の鞭痕や、大怪我は、主家が取りつぶされたを切っ掛けに、家を家族を失い、身持ちも崩し、喧嘩に明け暮れ、果ては窃盗と、公家の、預けられた姫様に手を出したところを押さえつけられ、散々に鞭で打たれて放逐されること二度、と言う、事実も言い訳もどっちもどっちと思われる身の上を椿と共に考えたのだが、人殺しをしていないだけ、言い訳の方が差し当たってましで、それを採用することにした。
 布一枚纏わない改めの部屋で、自分の身体の表裏をしげしげと眺めながら、諸大夫は、臭いものでも見るような視線で、よくも改心したものだと、悪党を極めたかの嘘の身の上と、千代の手紙とこの塔に訪れる使用人達の覚え書きにある自分の働きぶりを見比べ、感心したように言った。
 肩の傷はまだ包帯を巻いたままで、どうしたのかと聞かれたので、灯台の金具を、調整のため焼き締めて槌で打っていたところ、跳ね折れて、避け方が悪かったか、壁に跳ね返って肩口に刺さってしまった。けれど、重要な金具を折ってしまった罪悪感から、椿に言い出せず、隠していたら膿んでしまった、と、やはり、相談通りのことを答えた。
 改めには、医師ではなく諸大夫が来る。
 綾倉とは家格が違うが、奥向きの決まり事には精通している自分と椿だ。
 これが医師だったら、膿に怯まず包帯を解き、傷の様子を見分し、どう嘘をついても、真実如何にして負った傷かを言い当てられていたのだろうが、側室の改めだけは移る病気を持っていないかどうかと医師が来るが、下男の改めは、罪人ではないか、健康か、屋敷に相応しい逞しい身体かがどうかが重点であるから諸大夫がやってくる。
 案の定、諸大夫は、膿の糸が引くその傷を覆う当て布を気味悪げに軽く爪の先で捲っただけで、鼻を摘みそうに嫌な顔をして、無理も大概にせよと、化膿止めを送っていただくよう申し上げておく、それでは椿さまもさぞご不快だろうと、鼻の上に皺を寄せながらも気の毒そうに、その真偽を深く確かめることもせず、他に病は? と聞くに止まった。
 ないと答えた。信用に足る頑健さであるはずだった。
 諸大夫は、それだけ簡単に済ませると、傷は蒸らさぬほうがいいぞ、と、心配そうな言葉を掛けて帰って行った。


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