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右腕が上がらないほど腫れ、熱が出た。
丁度綾倉から船が着く日でもあった。
その頃には椿もよく、何もかもを心得ていて。
塔の外に出ていた椿に、綾倉の遣いは仰天したという。
そこで、椿は使用人が足の怪我を膿ませて、寝付いてしまったと言い張って、誰も塔の中に入れなかったと言った。
船にはいつものように椿を診る為のお抱え医師がいたが、彼は、椿や伯爵家の人間の診察をしても、町医者ではないのだと言って、家内の使用人の具合さえ決して診ない。どこの屋敷もお屋敷仕えの医師はそうだ。
自分と椿が予想したとおり、彼も全くその通りで、塔の外で、椿の診察だけをし、乞えば火傷や切り傷の化膿に聞くという薬だけを弟子に渡され、したりと、椿は急いで去ってゆく船を見送った。
あとは予想通り、綾倉からすぐにそのまま食べられる重箱が届き、内々に、甘いものなら病人の食も湧くだろうと、上等のまんじゅうが届けられた。
夫妻は、用事で横浜の屋敷に詰めており、不自由だろうから使用人を寄越すと言ってきたが、重傷ではないからと、椿はそれを首尾良く断わった。
「すみません」
と、十左が謝るのに、聞き飽きた、と椿は言って、まだ骨が浮くほど痩せた手を絡めて、寂しそうに言った。
ずっと前、まだ椿が幼い頃に見たような、機嫌の悪い、寂しそうな表情だった。
「早く治れ、十左」
理由も傷の具合も知っていて、そんな無茶を言う人がいとおしくて、はい、と困った笑顔で答えた。
「褥が寂しい」
欲しがる情熱のままに、獣のように椿と肌を合わせるそれすら受け止められるのかと思うと。
「はい」
目が眩む心地で、十左は、布の端から雫を滴らせながら、笑って頷いた。
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