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夜用の錘はすでに調整して横の木箱に入れられ用意されているはずだ。十左のように全部を巻き上げられなくとも、短い距離を何度も巻き上げれば朝は来るだろうと思いながら、天井に蓋のように着いている戸を押し上げると。
「……」
「…………」
生き霊とでも目があったかのような心地がして、呆然とそれを見た。向こうも、口が開くほど、茫然と自分を見た。
「――――……何をしているんだ、十左」
「椿さまこそ、何を」
互いに見れば解ることを問いあって、相手の答えを待ちあった。そして、先に我に戻ったのは十左で。
「お上がりください、早く!」
その慌てた声に、焦って転がりそうになるのを必死でしがみつきながら、灯台部屋に這い上がる。
十左は。
入り口にへたり込んだ自分を、驚いたように眺める十左は。
「何を……」
上擦る声で訊ねた。今朝方のことが夢ででもあったかのように。けれど。
肩に、自分で巻いたらしい、へたくそな当て布をして、裂いた布きれで縛ってあった。
すでに血の滲んだそれごと肩を脱ぎだし、片袖を抜いて。いつものように。
「夜が、来ますゆえ」
取っ手を巻き上げながら、今頃何を言い出すのかとでも言いそうな様子で、十左はその理由を述べた。そして、椿さまこそ、何を、と、問われて。
「錘を巻き上げに来たのだ」
そう答えて、今度は自分が十左を茫然とさせる番だった。
「無理でしょう」
一体何のつもりで、と言う表情で。さらに。
「お前に言われたくないよ」
一体どうして十左が錘を巻き上げているのか、さっぱり解らなくて。
互いに、山で出会った鯉と栄螺のような心持ちで、互いの存在が信じられないまま見つめ合って。
先に我に返ったのは、やはり十左だった。
止まっていた手で、またぎしりと、取っ手を巻き上げ始める。
「巻き上げなければ、夜の灯りが灯りません」
「だから私がやってきたのだ」
「お一人で上がられてはなりませんと、申し上げましたでしょう」
巻き上げられるかどうかなど完全に無視された、柔らかく責める声音に。
「お前がいると、誰が思えるものか!」
当然の言い分を、椿は叫んだ。
「そんな傷で、錘を巻き上げたら死んでしまう、十左」
言う間にも、布はすでに汗に濡れて、滲んだ血と、汗が混じって赤い糸が背中に一筋流れていた。傷に良いはずがない。傷の赤みも広がり、肩いっぱいにまで、他の皮膚とは違う赤みと腫れが広がっていた。
「念には念を、と思います」
言いながら回す、糸巻きがまた、縄を噛んでぎしりと軋む。
「綾倉家の方々を安々と騙せるとは思えません」
「だから!」
ここまでしたのだ。剥がれ落ちるほど深く皮膚を焼いたというのに。
「犯した罪は、消えません」
「もう良い、十左」
「椿さまが許しても、です」
これ以上何を購うというのかと言う自分に、静かに十左は答えた。
「許されることはあるでしょう。けれど、人を殺めた罪はなくなりません。それを、俺は消すのです」
その証として、戒めとして、拠り所として、一生肌に消えないように、捺された焼き印を消すのだからと、十左は言う。
「ご迷惑をお掛けするやも知れませんが、決して灯りだけは絶やしませんから」
俺の思うとおりにやらせてください、と、言ってまた、十左は血の混じった汗を、背中に伝わらせた。
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