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十左の想いを何一つ、無駄にしてはならない。
「私は、この塔の主だ…」
自分に言い聞かせるように呟いて、眉根を寄せて全てを堪えた。
ここから動かぬと喚くだけでは主を名乗る資格はない。
まず、身支度を調えて、褥に入って、何があっても夜明けまで褥を出てはならない。
夜が明ければ、バルコニーから綾倉の船を見張って、もしもこちらに向かってくることがあれば、塔を駆け下り、十左は病だと言い張って、追い返さなければならない。
主は塔を守り、使用人を守ってこそ、主だ。
所有するを嵩に着て、威張りちらし我が儘を喚くだけではその資格はない。
まだ日は到底落ちそうになかったが、寝間着に着替え、褥に入ることにした。十左が、思う存分回復に当たれるよう、自分に出来ることと言えば、大人しく眠る事というのが、酷く情けなくはあったが、事実だった。
「……」
打ち拉がれて、重い身体を引きずりながらベッドに向かう。
布団の端を、項垂れながら持ち上げて。ふと。
「…」
錘が、と、椿は思った。
晴れの日、十左は軽い分銅を朝、一度巻き上げる。
陽が落ちる頃になって、今度は夜闇を分ける重めの分銅に付け替えて、もう一度縄を巻き上げるのだ。
少なくとも、それは日に二度行われた。用意周到な十左にしても塔の高さには限界がある。《巻き溜め》はできない。
「…」
巻き上げたかどうか、聞きに行こうかと思った。
けれど、巻き上げる時間など無かったことは、自分が一番良く知っていて、忘れて眠っているかも知れない十左を起こすことは躊躇われた。
灯りは決して絶やさないと誓った十左だが、今朝の出来事は例外と言っていいほど過酷なことでもあった。慎重な十左にして、予想を遙かに超える打撃であったかも知れない。
分銅は、巻き上がっていない、たぶん。
日暮れにはまだ遠い。けれど、暗くなる前には巻き上げて、分銅を付け替えなければならない。
灯りが消えれば自ら綾倉の船を呼び寄せるも同然だ。
巻き上げられるものなのか、と、椿は考えた。
見ていると、どうやらあの取っ手を回せば良いだけのようだった。分銅の加減はわからないが、取りあえず、あれよりも重たいものに付け替えれば良いことだけは確実だ。
難しい作業ではないはずだ、と、思い至った。巻き上げられるかどうかは別として、だが。
部屋を出た。叱られると思ったが、叱る本人は部屋で唸って寝ているのだから、叱られるはずがなかった。
階段を転げ落ちたらそれこそ笑えないと、慎重に狭い階段を上った。
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