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朝からの出来事は、椿にとってもさぞ打撃が大きかっただろう。
泣き腫れた目は赤味が残る程度に引いていたが、その代わり疲労に黒々と隈が縁取り、ただでさえ切れ長の椿の目尻を艶やかに見せていた。
ほつれた髪、白い唇。
今は吸ってやりたくても、それもできない。
椿は、声を出さずに、少し目を伏せてから、小さく二度、頷いた。
出来ることはなく、自分に心配を掛けずに大人しく休んでいることが、自分を安心させるのだと思ったらしい。
「私のことは、心配無用だからな」
と、こんもり自分の額に丸い布を乗せたまま、椿は、ぱらぱらと生米を落としながら立ち上がろうとして。
あっ、と、声でも出しそうに、虚ろだった目を瞬かせた。そして。
「千代は、良い漢方医でもあった」
椿の世話をしていた傍仕えの千代の生家は、元々が漢方の家で、千代は漢方医ではなかったが、門前の小僧とばかりにそれ以上に良く合わせて煎じた。椿の治療に来た、綾倉のお抱えの医師が感激するほどの腕と品揃えだった。
千代の部屋には、百味とは言わないまでも漢方の薬が詰まった薬箪笥があり、症状に応じて、数種類混ぜ合わせて乳鉢で擦り、煎じて薬にしていた。
椿は、きっと火傷に効くものもあるはずだ、と、言いながら、胸元から白い懐紙に包んだものを取りだした。
「一番効きそうなのを持ってきた」
何にでも効く。たぶん。
と、怪しい薬売りのようなことを、いいながら、躊躇い、気味悪げに、爪の先で。
――――確かに、それは高級なものなのだろう。
包んであった懐紙は厚く上等だったし、飾りのように曲がったしっぽも、細い細い指一つ欠けずに残った、姿も。
せっかくここまで見事なのだ、と、椿は、直接触るのをやめ、懐紙ごと、十左に突き出して。
「頬張るがいいよ。煎じるよりきっと効く」
たぶん。
と、言い足すのを忘れずに。
恭しく、刻印まで捺した懐紙に載せられたイモリの黒焼きを丸かじりにするよう、十左に命じた。
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