―その1―
(1〜9)
6/8Up!!


―その2―
(10〜19)
6/15Up!!


―その3―
(20〜32)
6/22Up!!



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「千代殿の、看病などとは、…少し、違う気も、いたし、ます、…が」
 傷があれば、医師のように外科の手当てをし、布を当てて紙を挟む隙がないほど撓みなく包帯を巻き、汗ばめばこまめに着替えさせて、常に換えの桶を持ち込み冷えた水でしか布を絞らず、百種に近い漢方を混ぜて煎じては、時間通りに椿の身体の大きさに合わせて天秤で量り飲ませていた、そんな千代の看病など、もちろん、この椿に望んではいなかった。
「……そうかな」
 椿は、自分でもどこか少しそう思っているように、けれど、そんなことなど認めるつもりもない様子で、投げやりなそんな言葉を返してきた。
 椿は、布が絞れない。なぜなら絞る必要など無かったからだ。粥などもちろん作れようはずもなく、その腰から下が水を吸った生米まみれなのは、あとで起きあがれるようになってから、床を這い回って拾い集めることになるのだろうが、椿は多分、火を熾せないから、放っておいてもこの塔が炎上する心配はないと思われた。
 そんな椿に、十左は叱られるを覚悟で、どことなく、と、目のくぼみに流れてくる水に目を閉じながら、控えめに応えた。
 休めと言うなら盥を置いていってくれた方が、ゆっくり出来ると思うのだが、主である椿の有り難い看病を下男の身で断わることは出来ない。やると言ったからには、自発的に辞めてくれるのを待つしかないのだ。だが。
「そういえば…」
 と、椿は今急に思い出したかのように、軽く片目の視線を泳がせてから、十左に朗報をもたらした。
「私は看病されている間、朦朧としていて、何事も余りよく覚えていないようだ」
 さもありなん。と、即答したいのを我慢して、十左は、……さようでございますか…、と、控えめに答えた。
 もう、枕の周りは水浸しで、髪も襟も肩もびしょびしょだった。もう少し早く思い出して欲しかった、と言う言葉も、十左は無理矢理呑み込んだ。
「すまない、無理のようだ」
 悪びれたふうもなく、けろりと椿は詫びの言葉を口にした。もう、いいえ、と口にするのが精一杯だった。けれど。
「すみません、椿さま」
 重傷を負った身で水攻めにあいながら、それでも。
 びしょ濡れのまま、自分を見下ろす椿に微笑みかけた。
 椿が懸命に、己に施された看病を思い出しながら、自分にそれを与えてくれようとしたのが嬉しかった。
 下男を看病することなど、椿の育ちからすれば、到底考えがたいことだ。むしろしてはならないことだと、教えられているはずなのに、自分のために水を汲み、布を絞る真似事までしてくれたというのは、このあと、熱と傷の苦しみに朦朧としながら生米を拾い集める苦労を差し引いても、嬉しさで涙が出そうな行いだった。
「お前は、謝ってばかりいる」
 それに、自分の思惑が叶わなかった残念さを滲ませた苦笑いで椿はそう言って。
 私の世話は、必要ない。ゆっくり休め。
 ようやく気が済んだように、そして、そうすることが一番自分の休養になるだろうことを悟ったように、弱々しい微笑みで、やはり、彼もまた疲れ切ったかの青い顔で、椿は笑って見せた。
「夕刻には」
 椿がもし、火掻き棒を誤って、とんでもない場所に押しつけたことを想定して、向こう二日ばかり、簡単に用意できる献立の下ごしらえをしてある。
 下味を付けて干した破竹、炙るだけの魚。
 縁起の良い日にと思って取って置いた鞠生(まりふ)も、粗末で寂しい想いをさせるのだ。少しでも華やかな気持ちになればよいと思って奮発することにした。
「それまで、お休みください。椿さま」
 疼く肩から腕を持ち上げて、青い頬にそっと指を添えた。


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