|
|
「……おやめください、椿さま」
さすがにそれをどうこうする体力は、今の十左にはなかった。
椿の華奢な手のひらほどといえ、皮膚が抉れるほど深く、はげ落ちるほどの火傷を負ったのだ。
椿と引き替えなら、どんな痛みも熱さも耐えようと覚悟はしていた。あの鉄の棒を持てないのではないかと危惧していた椿が、立てないほど渾身の力を絞り尽くして、あの鉄の棒を拾い上げ、躊躇いなく焼き印を、想像以上に感心するほど上手く焼き崩してくれたことは、彼の必死の想いと、自分への恋情ゆえでしかあり得ず、その幸せをこうして思い返すたび。
「気に入らぬか、十左」
「…………。――――……いえ…」
額の布から垂れ落ちる水と共に、涙が耳に流れ込み放題なほどだ。
さすがにあの傷を負った直後は、高ぶりすぎた神経と傷の深さで、ふらふらとして立てず、力を使い果たした椿と、あの岩場に二人でばらばらに倒れ、もしこのまま潮が満ちれば焼き印の心配をする前に、命ごと流れて波の彼方に消えてしまうのではないかと、霞んだ意識に切実に思った。
けれど、どうにか潮が届くころには、二人で罵りあい(というには、椿がほぼ一方的に罵っていたのだが)、這いずって、塔の中に逃げ込むことに成功した。
それから、長い時間を掛け、(やはり罵られながら)階段を上り、椿の言葉に甘えて、椿の部屋の下にある自室までしか上がらず、椿は上の椿の部屋で休ませた。
心配ではあったが、一度、布団に転がってしまうと焼け爛れた肩が疼いて堪らず、身体は硬く強ばり、熱と乾きで、起きあがって椿の様子を見に行くのは不可能だと思われた。
こうする前に、椿には冷や飯と、色とりどりの霰と海苔を混ぜたものと、ほうじ茶をのせた膳を用意してある。
椿が好きな霰の茶漬けだ。金平糖を盛って食べるようなそれを、椿は機嫌良く食べてくれればいいと思いながら、痛みと熱に喘いでいると。
突然、椿が現われたのだ。
ここは下男の部屋で、椿が入るような部屋ではない。
動かない身体を無理に引き起こし、千代が生きていたら、自分が鞭打たれそうなそんな椿の行いを止める自分に、盥と布を得意げに小脇に挟んだ椿は宣言したのだった。
私は看病され慣れていて、看病は得意だ、――――たぶん。と。
「熱が下がる心地はするか、十左」
椿は、額に丸めて乗せた、びたびたに濡れた布が温む間もなく、雫を滴らせながらそれを掴み上げ、また、盥に入れた。
盥の中で、白い指先で摘んでそれを振り、うどんでも引き上げるようにぞろりと水からそれを引き上げて、反対の手で下から掬う。さらに、掬った手にそれを乗せ、握り飯でも握るように、手のひらで丸くぎゅっと、一度押さえて、丸いまま。
「……」
指の隙間から、ぼたぼたとまだ雫を垂れさせながら、自分の額に乗せるのだ。
当然布からは、水が流れるほどに滴り、こめかみはもとより、頭の中、果ては顔まで、ぐっしょりで、枕など、洗ったほどにびっしょりだった。
「……俺の気のせいやも知れませんが」
あまりにあからさまな遠慮で、それでも仕方なく、十左は訊ねた。
|
|