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「椿さまの為を思えば、このままそっとお見送りするのがよいのだと、思いました」
苦笑いが見えるような、傷だらけの背中で十左は言った。
「椿さまが、幸せになるなら、俺はそれで満足だと思っていました」
晒された、左の肩胛骨の裏に、黒々と焼き付けられた、罪人の印。手のひらに収まるほどの、四角の中に横三本の筋が引かれた、敷島家の重罪人の証。
当主殺しの――――父親殺しの許されがたい罪だ。
「けれど、椿さま」
本当に、困った声で、振り返りもせず。
「時折でいい、椿さまと逢いたかった。この世を全て謀っても、椿さまの声を聞きたいと、思いました」
「……」
十左の考えが徐々に沁みて、涙が滲んだ。
この焼き印がなければ、十左に逢える。この印がなければ、共にいられる。
この、罪の印を。
この焼き印を焼き着けた鉄より、熱く大きなもので焼いてしまえば、十左の傍にいられる。
「酷いことを、頼みます。叶えてくださいますか」
それが否でも当然なのだと言いたげに、十左は訊ねた。
恋した男の皮膚を焼かせる。それがどれほど不快なことか解っていると。自分はそんなことをする身分にはないのだと。それでも。
「御願いです、椿さま」
――――十左の願いは、自分の願いだ。
自分さえ、綾倉の家に行き、二度と灯台には近寄らないと誓えば、十左はここを自由な牢獄に、その仕事ぶりを見込まれて、心配のない物資を与えられながら、一生ここで見過ごされるだろう。
「私を……、許すか」
目眩がしそうになる足下を踏みしめて、灯りに引かれる蝶のように、椿は、ふらふらと朱く燃え立つ窯に近寄った。
「私が何をしても、お前は私を許すか?」
傍にいたいがために。
あの日、十左の頬を土間に押さえ込み、腕を折って、罪の証を焼き付けた家人より、酷い痛みを与える自分を。
「はい」
応える背中は明るかった。
震えもせず、揺らぎもせず、ただ、静かに海に向かって座っていた。
「……」
残酷な道具のはずなのに、その取っ手の温もりは優しく暖かかった。
取り出す火掻き棒に、朱く熾った炭の山が乾いた軽い音を立てて崩れる。手のひらの震えを握り潰す。それでも、身体の震えは止まらなかった。
迷えば余計、十左を傷つける。
焼き印より、一回り大きなそれが焼き印を上手く覆えなければ、意味が無くなる。
迷う間に鉄の温度が冷えれば、十左を余計苦しめる。焼き印を捺した時以上の高温で覆わなければ、薄く残ったその傷は、消えないものと差がないだろう。
人殺しにも劣る、と、椿は震えながら笑った。
死に勝る苦痛を与えるのだろう。
憎しみではなく、ただ一心の、恋しさで。
恋が、自分に非道を犯させる。
「十左」
呼ぶと、はい、と、覚悟をしたかの静かな声が背中越しに応えた。
「私は、この塔を出ない」
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