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「……」
下の窯には火が入っていて、それを、狭い視界の端に見ながら椿は階段を降りた。
下の潜り戸を抜け、潮の匂いに満ちた濡れた階段を降りる。
一日のほんの僅かな時間、岩肌を見せる短い地面には湯を沸かすための小さな窯が持ち出され。
「……十左…?」
普段、貴重と言われ、自分の口に入る魚や魚介を調理するためにしか使われない上等の炭が、盛り上がるほどたっぷりと赤々と焚かれていた。締まった古木で焼かれた炭は、煙を出さない代わりに、粗末な炭の倍ほども熱く、魚は活きたままのようにして美味しく焼き上がるのだと。
「過ぎたる贅沢、お許しください。時間がありませぬゆえ」
その中には、冬に使う暖炉の火掻き棒が差し込まれていて、椿は怪訝に眉を顰めた。
何を焼くつもりか知らないが、これだけの量の炭だ。火箸では上手く盛り上げられなかったのだろう。それまではわかる。
けれど、取っ手の部分まで朱く焼けるほど突き刺された――――そう、火掻き棒は炭を盛った後も窯から外されず、炭の中に埋められていたのだ――――二本の、火掻き棒で何をするつもりなのか。しかも。
周りには、曲げられた、様々な金属が散乱していた。確かに、塔の下で、朝から金属を打つ音が、高く硬く響いていた。けれども、それは十左が時折、灯台の道具に使う金具を調整するための音でもあって、珍しくはない音だと思っていたのに。
「どうにか、自分で致せぬものかと苦心惨憺いたしましたが、見えぬままでは狙いも定まりませんし、寸分たりとも、残しては意味がありません」
焼き焦げた鏝、塔の周りの海藻を刈り取るための細い鍬も黒く焼けて転がっていた。鎌、包丁、へら、ありとあらゆる金属が、そこかしこに、ねじ曲げられて落ちている様子は到底十左が正気なのだと思わせなかった。
「…」
宥めるような微笑みを残して、十左は、御願いいたします、と、頭を下げ。
ゆっくりと、朱く燃える窯を背に、海に向かって岩場に腰を下ろした。
「十左……」
ゆっくりと椿は息を呑んだ。
まさかと思った。確かにそうすれば、願いは叶う。けれど、本当にそんなことを、十左は正気で言うのか。
「いろんな物を曲げたり伸ばしたり、試してみましたが上手くゆきそうなものがありません」
釣り針のように曲げて自分で柄を持ち、肩越しに押しつけるように曲げようとした跡もあった。
「重たいです。決して火傷など、なさいませんように」
「十左!」
火掻き棒には、長い鉄の棒に、炭を掻き寄せられる平たい小さな板がついている。
「出来れば一度で御願いします。確実に、全部の上から。一度捺したら、すぐに、二本目を、方向を変えて」
火掻き棒だと見破られたら、目論見が知れてしまいます。
そう言って、十左は、袖を抜いて、襟から肩腕を分け出した。
「十左、正気か……!」
そんなことをすれば、どれほど痛むか。
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