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父は、倉で刀を見分中、落ちてきたその一本に、首を刺し貫かれた事故で死んだことになっている。
が、斬首された遺体を普通のそれに扱えるはずがなく、漏れないように、鶏のように吊られて血を抜かれ、決して棺桶の蓋は開けられず、事故死の見分も、当時まだ隆盛だった家の力を嵩に着て、憲兵にも決してその亡骸を改めさせなかったと、千代には聞いていた。
未だ、内々には――――そして、醜聞好きの華族の間では、事故ではなく殺しだったのではないかと、公然の事実のように語られているというのに。
家の焼き印を捺される罪人など、そう頻繁には出ない。十左の年頃を遡り、父の死と重なれば、十左が仕手人だと証明したも同然だ。
日本が誇る貿易商であり、堂上の旧家、多くの華族が手を変え品を変え擦り寄る綾倉家なら、調べる間もなくその事実に行き当たる。求めなくとも些細な見返りを期待して、我先にと差し出される醜聞かもしれない。
それは元々、どこにも逃れられないことを目的に捺された烙印でもあった。
「私が許さない。改めなど」
「ならば尚更、疑わしいと言うも同じです」
「お前は私の家人だ」
「だからこそ、綾倉の御前は心配なさるでしょう」
人殺しの罪人と、二人きりで、悲鳴も届かない塔に置いておくのを許すはずがない。
「――――私は行かない」
十左の腕をふりほどき、無理矢理に立ち上がって。
言い返せもしないまま、椅子を立った。
「椿さま!」
危ないと、声音が言うのを無視して、入り口の戸を引き開けた。
泣きそうな声が、背中で、すみません、と言うのに、手に触れた蝋燭の溶け残った燭台を投げ付けた。十左には当たらなかった。
「どうして」
綾倉の祖父には逆らえない。
祖父は十左を見込んでいる。十左が父親殺しの――――ましてや、母・香織の夫を、自分の父を殺した犯人であるなら、その裏切りに、その場で十左を殺してしまうかも知れない。
「は……、っ……」
弱った心臓に、急な階段が悲鳴を上げさせる。
「――――っ……」
苦しさのまま、息を上げ、階段に崩れた。
綾倉家に行かなければ、十左が殺される。
自分さえ綾倉家に行けば、十左がもし人殺しだとしても、都合良く黙認され、逃げ場のない体の良い監獄として、灯台守という重労働を罰に一生、灯りの番を言いつけられるだろう。けれど。
「何も要らないのに――――っ……!」
石の階段に立てた爪が軋んだ。
自分が望んだのは些細なものばかりだ。
それすらなくとも、十左となら笑って死のうと、指を繋ぎあって誓った。
たった一つ、望んだもの。それが手に入らないのなら。
「……前にも増した地獄だ」
蹲るまま、気の遠くなる意識の端で、自分の名を叫ぶ十左の声が、やはり狂おしいほど恋しくて、閉じた瞼に、堪えた冷たい涙が切り零される。
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