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確かにここは、岩盤で、如何に大きな波が押し寄せても足下から崩れることはない。けれど、老朽はしないはずもなく、自然のものである海が、いつ突然、この塔を越える津波として襲ってこないとも限らないことは、海を良く知る綾倉のものから、口々に聞かされていた。
毎日巻き上げる分銅のすぐ横は、この塔の底まで続く穴だ。足を滑らせ転落すれば、即死は免れない。
狭く濡れた石の階段も、転倒すれば打ち所悪くして、死ぬかも知れない。
「……綾倉家で、椿さまはご自由です。誰の目に憚ることなく、庭も、ありましょう」
思い出の深い、敷島の家より尚広い、美しい庭を、片目が見えれば供も連れずに、一人で自由に散策できる。広い屋敷を誰にも咎められず、自由に暮らすことが出来る。
今度こそ、幸せは来る。
「椿さまが、綾倉の御家に行かれても、決して光を絶やすような真似はしません」
ここで、祈り続ける。今度こそ、椿の幸せと安全を確信し、あの山でのように、懺悔と祈りを力に変えてこの灯台の灯りを決して絶やすことはないだろう。
「……便りは時々差し上げても良いですか」
大人しく背中で聞く、椿に宥めるように乞うた。
差し出せる文はきっと、魚が釣れただの、珍しいものが流れついただの、嵐で忙しかっただの、そんな他愛のないものになるに違いない。
けれども、想いは続いているのだと、それを知らせるためだけに。
灯台からの手紙など、その手許に届くことなどなくとも。
納得してくれたか、或いは、少しでも考える気になってくれたか。
今までは、相手にすらしなかったのだから、十分な進歩だと思いながら、十左は切なく立ち上がった。
いずれきっと、解ってくれるだろう。
綾倉夫妻や叔父達が持ち込む贅沢で珍しい品や、椿好みの、薄味で飾りのようにほんの少し盛りつけられた皿の数々が心を動かすだろう。
のちほど、水差しをお持ちします。
そう言って、多分めちゃめちゃに機嫌が悪いだろう椿に、胸を痛めながらベッドを離れる、その背中に。
「!」
よろけるほどに思い切り。
「椿……さま……」
ベッドの上に座って、肩で息をしている椿と、足下に転がった枕を見比べ、呆然とした。しかし。
「……無礼を申しました。なれど、椿さまの御た…」
「お前といたいと、この口で言わせたいのか、馬鹿者ッ!」
悲鳴のような金切り声で。
「こんな…辱めを受けるのは初めてだ…っ…!」
絶望を隠さない、激しい口ぶりで椿は呻いて、布団の中に抱えた膝に顔を埋めた。
罪人の下男に。
恋を告白するのは、自分のそれよりどれほど、いろんな物を折らねばならないのか。
目眩がしそうに甘美な責めの言葉に。
十左は、すみません、と無粋に謝って、二個目の枕を頭に投げ付けられたのだった。
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